Archive for the ‘保険あれこれ’ Category

『保険会社のERMに関するブログを始めました。』

金曜日, 2月 27th, 2015

このサイトの『練習帳』掲示板に、久々に投稿がありました。

http://acalax.info/bbs/wforum.cgi?no=3608&reno=no&oya=3608&mode=msg_view&page=0

内容は、
『保険会社のERMに関するブログを始めました。ご意見賜わることができれば幸いです。』
というもので、
http://blogs.yahoo.co.jp/erm_insurance

というリンクが張ってあります。
erm_insuranceという人の投稿のようです。

『ERMの実務者であれば誰もが酒の席で語らうような悩みや疑問への回答に踏み込むようなブログにしていきたいと思っています。』
というコメントで始まっています。

なかなか面白い問題提起かもしれません。
保険会社のERMについて、現実的に、実務的に考えるためのヒントあるいはきっかけになるかもしれません。
興味がある人は見てみてください。
また、よかったらコメントしてください。

『昭和戦争史の証言 - 日本陸軍終焉の真実』

火曜日, 1月 13th, 2015

この本の著者の西浦進という人は、陸軍幼年学校・陸軍士官学校(恩賜の銀時計組)・陸軍大学(主席で卒業)という、まさに軍人としてはエリート中のエリートといった人です。普通こういう人は参謀本部に入るんですが、この人は陸軍大学を出てすぐに昭和6年に30歳で陸軍省の軍務局軍事課という所に配属され、終戦までのほとんどの期間その軍事課にいたという珍しいキャリアの軍人です。

普通第二次大戦の本というと、戦争の現場の話か、あるいは参謀本部の作戦の話が多いのですが、この本は著者が属していた陸軍省軍事課の視点から戦争の実態について書いてあり、非常に面白い本です。

この軍事課というのは陸軍の予算を所轄する部門なので、大蔵省と予算折衝をする話も出てきます。また陸軍の編成・装備に関することも所轄しているので、兵隊の持つ銃をどのように調達するか、軍馬をどのように調達するか等々、他の本では読めないことが書いてあります。
もちろん際限もなく金を使いたがる軍の司令部との交渉、予算に関係なく作戦を立てようとする参謀本部とのやり取りも具体的に書いてあります。

著者はほぼ一貫して軍事課で仕事しているのですが、その間昭和9年から12年に中国・フランスに駐在し、スペイン内戦の時にはフランスからスペインに乗り込んでフランコ陣営を直接見てきた人です。また東條英機が陸軍大臣から総理大臣になった時(陸軍大臣も兼任)、陸軍大臣秘書官にもなって(半年間)、太平洋戦争の開戦に立ち会い、また終戦直前東條英機が外された後、東條の一派とみられてシナ派遣軍の参謀に異動して、結果、終戦後中国にいた日本軍の復員の交渉にも当たったという人です。

陸軍省というのは政府の一部ですから、統帥権の独立を言い立てて政府の言うことを聞かない参謀本部とは立場が違います。大本営ができた時、一部の人達はこれで政府に制約されることなく好き勝手できると期待したんだけれど、別に何も変わらなかったという話なんかも面白いです。統帥権独立というのは、陸軍の全体が言っていたというのとはちょっと違うようです。

満州軍を交代制にするか常駐制にするかとか、満州軍の将校の家族を一緒に住まわせるようにするかとか、シナ事変後急激に軍事物資の調達が増加し、予算担当としては何とかして値上がりを抑えようとしたのに、海軍がいくらでも金を払うというスタンスだったのでどんどん高くなって困ったとか、陸軍の中の経理官とか医官とか獣医とか、普通、軍の話の中心にならない人々の処遇の話も面白いですし、陸軍の人事が非適材非適所でむちゃくちゃで、特に航空隊を作った時の人事はシッチャカメッチャカだ、なんて話も面白いです。

太平洋戦争が始まった時、テレビのドラマなんかから国民全体が朝のラジオの「本日未明戦闘状態に入れり」というのを真剣な顔で聞いていたように感じますが、その朝ある新聞記者が著者に東条内閣の弱腰をなじるような電話をかけてきて、著者から「今朝は寝坊してラジオのニュースを聞いてないな」と言われて慌てて電話を切った、とかいう話も面白いです。

また日米開戦と同時に、それまでソ連を攻めていたドイツがソ連を攻めるのをやめたのに気がついた、というようなことがサラッと書いてあります。今までそんな視点で見たことがなかったので、改めてヨーロッパの第二次大戦と太平洋戦争をその相互関連の視点から見直して見ようと思います。

この本には山ほどの軍人が出てくるのですが、ほとんどが陸軍士官学校の卒業生で、そのいちいちに(第○期)と付いているというのもすごいな、と思いました。伝統的な日本の会社で入社年次が重要視され、「誰それは○年入社」というのがいつまでも付いてまわるのと同じで面白いです。

話がすべて具体的で、満州事変から終戦まで陸軍の行政部門は、何を考え何をしていたのか良くわかる面白い本です。

お勧めします。

藤澤陽介『すべては統計にまかせなさい』

水曜日, 4月 16th, 2014

有料のメールマガジン『inswatch』に毎月1回記事を連載してもらっているのですが、3月31日の記事を転載します。
とりあえず、もう半月たったから、まあ、いいかな、とも思いますし、アクチュアリー関連の記事はあまり見る人も多くないので、まあ、いいかな、とも思い、転載します。

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 2014年3月
藤澤陽介『すべては統計にまかせなさい』

いよいよ平成25年度も今日で終わりです。今のところ、国債の利回りも0.6%台で推移し、為替も円安のままですから、生保各社の決算は今期も見てくれのいい結果になると思います。とりあえずは何よりです。

ところで、ライフネット生命のアクチュアリーの藤澤さんが『すべては統計にまかせなさい』というタイトルの本を出しました。この2月に発行されたばかりの新しい本です。この本の紹介をします。
タイトルの『すべては統計にまかせなさい』は、少し前に出てベストセラーになった『統計学が最強の学問である』のまねをして出版社が付けたものだと思うのですが、本の中身はこのタイトルとはまるで違います。
アクチュアリーというのは保険会社や銀行なので保険料を計算したり年金の計算をしたり、金利計算をしているのですが、この本ではそこで使われる統計学について、わかりやすく説明しようとしています。なお、著者は統計学、という言葉でなく統計、という言葉を使っているのですが、内容的には統計学、という言葉を使う方が普通だと思います。
統計学というのは、ちょっととっつきにくく、理解しにくいものですが、様々な例を使ってなんとかわかりやすく説明しようとしている本で、その分、正確さにはちょっと欠けます。正確でなくてもいいから読者をなんとなくわかったような気にさせようとしている本です。そのついでにアクチュアリーという人たちがその統計学を使って何をしているのか、ということについても同様に、正確でなくてもなんとなくわかったような気にさせようとしているようです。その狙いがうまくいっているかどうかについては、読んでのお楽しみ、というところです。
統計学やアクチュアリー学についてちゃんとした正確なことを知りたい人は、普通の教科書や紹介されている参考文献を読んでください、ということで、教科書を読みながらこの本のどこが正しくてどこがいい加減か確かめてみる、というのも面白いかもしれません。あらかじめこの本を読むことによっていろいろな言葉を知ることができるので、その分教科書を読むハードルが低くなるかもしれません。
アクチュアリーは保険料の計算の仕方など、保険数理の解説の本を書くことはありますが、統計学について本を書く、というのは珍しいので、面白いかもしれません。
この著者はアクチュアリーとしては変わった人で(一般にアクチュアリーというのは変わり者、というのが通り相場ですから、その中でも変わり者、というのはとんでもなく変な人、という意味か、かえって普通の人に近い人、という意味かは、読んでみて判断してください)、珍しく外向きの(アクチュアリー以外の様々な人とコミュニケーションをとることが好きでそれを大切にしている)人のようです。
一方、優秀な成績でアクチュアリー試験に合格し、海外に留学もしている人ですが、後輩のアクチュアリー試験受験者を支援する『アクチュアリー受験研究会』の会長もしている、ということです。
著者の勤めるライフネット生命は今年度に入ってから業績が低迷し、株価も期首の800円台から先週は400円を切りそうになるまで下落しています。会社の現状については有名人の会長でも社長でもなく、アクチュアリーである著者が一番よくわかっているはずで、その現状認識に従って商品戦略、経営戦略を立てるのもこの著者です。
その戦略がうまくいってライフネット生命の業績が回復するといいな、と思います。

ライフネット生命の保険料率改訂

水曜日, 4月 16th, 2014

ライフネット生命が4月1日に料率改訂のニュースリリースを出しています。
これはエイプリルフールの冗談ではなさそうなので、ちょっと見てみました。

5月2日の予定で料率改訂をして保険料を下げるということです。

以前ライフネット生命は「生命保険の原価の開示」と称して、営業保険料の内訳としての純保険料と付加保険料を開示し、また付加保険料をどのように計算したのか、1件あたりの付加保険料・営業保険料あたりの付加保険料率・純保険料あたりの付加保険料率を開示しています。

今回は営業保険料の内訳としての純保険料と付加保険料の開示は行なっていますが、その付加保険料をどのように計算しているのか、という部分については開示していません。ちょっと計算してみた所、付加保険料の計算方式はこれまでのものとは違っていることは確かです。また定期保険と医療保険で違うものを使っていることも確かです(これまでは同じ計算方式を定期保険にも医療保険にも適用していました)。

まず定期保険ですが、商品はそのままで保険料を変えると言っています。この言い方では既契約の保険料は変更後の保険料率を適用するのか、今までの保険料率を適用するのか、わかりません。

またおおむね男女とも保険料は安くなっているんですが、一部若い女性の所は逆に保険料が高くなっている部分もあります。

いずれにしてもせいぜい1割程度の保険料の引き下げですから、あまり大きく変化したわけではありません。

医療保険の方は結構大幅な変更です。

純保険料は2割程度引き下げ、付加保険料は3割程度引き下げて、全体として営業保険料を24%程度引き下げたということのようです。

医療保険の方は今までの商品を売り止めにして新しい商品を売り出すということですから、既契約については保険料を引き下げることにはしないんだろうな、と推測します。

でも終身保障・終身払の保険料が2割5分も安くなるのであれば、健康状態に問題がない人は今までの契約をいったん解約し、新しい商品に入り直した方が得になるかも知れません。

古い商品の方はその結果、健康状態の良くない被保険者だけが残ることになると、今までの高い保険料でも収支が釣り合うのかどうかわかりません。

いずれにしてもライフネット生命は既契約者に対してどのような通知をしているのか、気になります。もし新規に入り直したら保険料が安くなるのに、何も知らせずに放っておくとしたらちょっと問題かも知れません。

私もアイエヌジー生命にいた時は、何度か保険料の改定を経験しましたが、保険料を安くするというのはなかなか厄介な話でした。昔ながらの有配当の契約であれば、古い契約の保険料を引き下げなくても保険料の高い分は配当で還元します、ということで、契約者間の公平性の問題は何とか解決することができるのですが、無配当の商品ではそのような手段が使えないので、前からの契約者と新しい契約者との公平性を担保するのに苦労した覚えがあります。

ライフネット生命は解約返戻金がないのでちょっと気楽ですが、その当時のアイエヌジー生命は解約返戻金がありましたので、保険料の方と解約返戻金と両方考えて辻褄を合わせ、前からの契約者が不利にならないようにいろいろ工夫した覚えがあります。

その当時は無配当のいわゆる外資系生命保険会社という会社ではこの問題は共通の問題で、皆でいろいろ知恵を出し合ったりしたのですが、今のライフネット生命にはそのような経験をした人がいるとも思えません。その分、かなり苦労したんだろうなと思います。

いずれにしても営業保険料を引き下げ、付加保険料も引き下げていますから、会社の収益は当然かなり悪くなります。これの元を取るためには、保険料が安くなった分たくさんの新契約を取らないとならないのですが、平成25年度中一貫して低迷した新契約成績を回復するだけの新契約を獲得するのはかなり難しそうな気がします。

一方保険料を引き下げて、既契約(の一部)が一旦解約されて新規の契約に入り直すとすると、表面的には新契約が増えます。その分解約が増えるので、保有契約は増えませんが、既契約の解約に伴う解約益が生ずるので(解約される契約は解約返戻金はありませんが責任準備金がありますので、その責任準備金の丸々が解約益になります)、一時的に収益が良くなったように見えるかも知れません。といっても実際一時的なものでしかないので、ライフネットの収益体質を変えるものではありませんが。

ということで、今後ライフネットの契約成績・収益がどのように変化していくのか、注目したいと思います。

ハレーの生命表

金曜日, 2月 14th, 2014

「ハレー」というのは、あのハレー彗星のハレーです。
この人が史上はじめて実際の死亡データにもとづいて生命表を作り、その生命表を使って生命年金の計算をした、その論文を紹介します。

例によって訳文と、それに若干の説明を追加しています。

年金の計算では、まず単生の年金を計算し、次に二人の連生の年金を計算し、調子にのって三人の連生年金の計算までしているのですが、さすがにそこの部分はあまりにも込み入っていて、また訳す意味もあまりなさそうなので省略しましたが、それ以外は全訳です。

とにかく史上初の生命表がどのようにして作られ、どのように使われようとしていたかがわかる論文です。

単に「ハレーが最初に生命表を作った」では収まり切れない面白い話がいろいろみつかります。

良かったら読んでみて下さい。

http://www.acalax.info/bbs/halley.pdf

A4 20ページになるため、pdfファイルにしてあります。好きなようにダウンロードしてお読み下さい。

久しぶりのアクチュアリー関係の資料なので、ブログと練習帳掲示板と両方にこの記事を載せておきます。

こども保険の和解

水曜日, 10月 30th, 2013

こども保険の元本割れについて、裁判で和解が成立した、というニュースが出ています。これについて、久しぶりに掲示板の『アクチュアリーの練習帳』に投稿がありました。

私もコメントを追加しています。

http://www.acalax.info/bbs/wforum.cgi?mode=all_read&no=3557&page=0

もしよかったら見てみてください。

ライフネット生命・・・再び

金曜日, 5月 17th, 2013

ライフネット生命の社長さんが交代、ということです。
若い社長さんには頑張ってもらいたいと思います。
とはいえ、今まで社長だった出口さんが会長兼CEO、副社長だった岩瀬さんが社長兼COO、ということですからあまり大きな変化はないのかも知れません。

ところでその社長交代の発表と同時に、ライフネット生命の2013年3月期の決算も発表されています。この前ライフネット生命の株主の変更のニュースの時に、第3四半期の報告と決算の見込みについてコメントしたので、それを検証する意味でも決算を見てみました。

まず第一に、第3四半期で黒字になっていたので年度決算も黒字かと思ったのですが、最終的には赤字決算で締めくくったようです。とはいえ、経常損益で23百万円の赤字。ここから税金を差引いて当期純損失で126百万円の赤字ですから、それほど大した赤字ではありません。

この前のコメントで、この決算での113条の利益かさ上げは18億円くらいと見積もったのが、結局1,641百万円とちょっと小さくなりました。

また今後の113条の償却負担を毎年11億円程度と見積もったのが、1,060百万円ということになっています。

今回の決算報告では、この113条の仕組や今後5年間は償却負担だけが続くということがちゃんと説明してあります。そこまで見ればちゃんと分かってもらえるかもしれません。

ところで考えてみれば今期黒字になったりすると来期からまた当分赤字決算が続くので、赤字決算に逆戻りというよりは、ちょっとだけ赤字にしておいた方が好ましいということだったのかも知れませんね。

今まであまりなかった保険金の支払額が急増しているのは今後とも要注意だなと思いながら、いろいろ見ていたらビックリするような記載をみつけました。

責任準備金の計算について「保険数理上、より合理的かつ精緻に見積もることができる」ということで、計算方式を変更したということです。その見積変更による影響額が501百万円ということですから、もしこの変更がなかったら、赤字は5億円多かったということになります。良く確認したら、この変更は第3四半期の時から変更されていたようです。

この変更による影響は一度きりのものですから来期からはこのかさ上げ効果はなくなり、113条の償却負担だけが残ることになります。

今期と比較すると、113条で16億円のプラスだったのが11億円のマイナスになり、計27億円、さらに責準の5億円で、計32億円のマイナス効果がある、ということになりますから、表面的には大幅な赤字決算ということになりますね。この大幅赤字の説明をするのが新しい社長さんの仕事、ということになるのでしょうか。

でもこの113条の影響と責任準備金の変更の影響を除いてみると、経常損益で前期(2012年3月期)2,184百万円の赤字が、今期(2013年3月期)で2,165百万円の赤字となっています。ようやく赤字が底を打ったのかなということです。

事業費も前期3,984百万円が今期4,976百万円と相変わらず順調に増えていますが、今期ようやく収入保険料が事業費を上回るようになりました。入ってくるお金で出て行くお金を賄えるようになった、ということです。

日本でゼロスタートの生命保険会社では開業5年で赤字が底を打ったというのは、なかなかの好成績です。こうなるとあと2-3年で単年度黒字になることが期待できます。ただし113条の償却負担があと5年間あるので、実際の決算上の黒字はもう少し先になるのかも知れません。

また今の所まだ責任準備金の積み方は5年チルメル式ですがこれをいずれは純保式(平準純保険料式)にすることになるので、その移行のタイミングによっては単年度黒字の時期はさらに先送りされるかも知れません。

責任準備金の計算方法の変更による5億円の利益かさ上げですが、今期末の責任準備金が3,278百万円。うち危険準備金が997百万円ですから、残りが2,281百万円です。計算方式の変更がなかったとしたら、これが501百万円多かったということですから、2,782百万円になるはずだったものを、計算方式の変更で2,281百万円にした(2割ほど減らした)ということになります。

こうしてみるとかなり大幅な変更です。一体どうしてこうなったんだろう、とちょっと不思議ですね。

ライフネット生命

木曜日, 5月 2nd, 2013

ライフネット生命の筆頭株主が変わったようです。

ライフネット生命が4月25日に発表していますが、今までの筆頭株主だったマネックスグループが持株の全てをスイス・リに売却して、ライフネット生命はスイス・リと業務提携契約を結んだということです。通常業務提携の発表は両方の会社から発表されるのですが、今の所スイス・リからの発表は見つかりません。

マネックスグループはライフネットの立ち上げ時からのスポンサーでしたが、全持株を41億円で売却して23億円の売却益を得たということですから、ベンチャーキャピタルとしては満足できるリターンだったのでしょうか。現経営陣はスポンサーに対する責任は果たしたということになるのでしょうね。

売却価格は1株あたり722.6円。これは株式公開以来の最安値に近い水準で、最近の株価が800円前後で動いているのに比べれば9掛け位の水準です。9掛けでもマネックスグループとしては利益を確定してしまいたかったんでしょうね。

でも世界的な保険会社が筆頭株主になって良かったですね。

保険会社には保険業法113条繰延資産といって、開業当初の5年間の事業費の一部を開業後10年までの期間に繰り延べるという、特別の繰延資産があります。ライフネット生命は今までこれを使ってきているので、毎年5億円~15億円(2013年3月期決算では多分18億円程度)、利益をかさ上げしています。今期(2014年3月期)からはその繰り延べができなくなり償却のみになりますから、今後5年間は毎年11億円ずつ利益が下押しされることになります。今期だけ見ると、前期18億円のかさ上げが今期11億円の下押しで、トータル約30億円の対前年度マイナス効果が発生するということになりそうです。

この113条の繰り延べによって、ライフネット生命は2013年3月期の第3四半期(2012年12月まで)で黒字の決算を発表しています。多分2013年3月期の年度決算でも黒字になるんだろうと思います。これが2014年3月期ではまた大幅な赤字決算ということになりそうです。

この113条繰り延べというのは、保険業法に規定されたごく真っ当な経理処理ですから、これで赤字になったからと言ってライフネットの収益力に大きな変化があったというようなことにはなりません。とはいえ、ライフネットに投資している人は必ずしもこのあたりの仕組みをちゃんと理解していないかも知れないので、決算の数字だけを見るとビックリしちゃうかも知れませんね。そんな時スイス・リが筆頭株主になっているというのは、安心感につながるかも知れません。

スイス・リというのは再保険会社ですから、ライフネット生命と業務提携してもあまりメリットがありそうにも思えません。しかし再保険会社というのは投資からの収益のために、株主配当だけでなく再保険料収入も使うことができます。今後ライフネット生命の再保険収支の変化は注目です。

アクチュアリーの練習帳

月曜日, 9月 24th, 2012

このブログ、というよりこのサイトですが、もともと『アクチュアリーの練習帳』というタイトルで、それと同じタイトルの昔ながらの掲示板がついています。

この掲示板に久しぶりに投稿がありました。
http://www.acalax.info/bbs/wforum.cgi?no=3533&reno=no&oya=3533&mode=msg_view&page=0

質問の内容は積立利率変動型終身保険の保険数理についてのものなのですが、アクチュアリーの方、あるいは生命保険会社の商品開発に強い方など、もしよろしければ質問を読んでいただいて、できれば解答・コメントなど投稿していただけるとありがたいです。

ERM (Enterprise Risk Management)

木曜日, 12月 8th, 2011

近頃アクチュアリーの間ではERMという言葉がはやりです。

文字通り訳せば企業(事業)の危機管理ということなのですが、今いちその意味する所がわかりません。
アクチュアリー会ではこれを正式な教育課程にして、新しい資格制度も作るということのようです。

で、このテーマでセミナーがあるという案内があったので、参加してみました。場所は東京大学の金融教育研究センター(carf)という所です。

通訳はなし、ということはあらかじめ案内されていたのですが、講師が話し始めた途端、その早口の英語に「こりゃ半分も聞き取れないかな」と心配になりました。ところがしばらくして慣れてくるとそれほどでもなく、所どころ聞き取れない所はあったものの何とか最後まで聞くことができました。

講師はKent大学のアクチュアリー学部だか学科だかの教授であり、J. P. Morgan Asset Managementの Managing DirectorでもあるPaul Sweethingさんというアクチュアリーで、イギリスのアクチュアリー会のERMの教科書を書いた人だということですから、話を聞くには最適な人です。

で、会場に入ったら、大きな教室の正面のスクリーンにパワポのプレゼンが映されているんですが、何とも字が小さくてどうにもなりません。何とか読めるようにと考えて、結局一番前の席に座ることになってしまいました。

プレゼンを紙に印刷したものも配られましたが、いかんせん字が小さくて往生します。講師がまだ若い人(40歳位)のようで、老人に対する配慮などはあまり気にしていないようです。

で、このERMですが、いわゆる単なるRisk Managementと何が違うかということですが

  • ERMについてはまだ統一された定義はない。
  • 個々のリスクについて個別に考えるというより、企業の全体のリスクについて、全体的に考える。
  • いくつものリスクの複合リスクについても考える。
  • 数量化できないリスクについても考える。
  • 気がついていないリスクについても考える

ということで、何となくわかったようでわからないようで・・といった所です。

どうも保険会社とか金融機関に限った話ではないようです。また金融リスクに限った話でもなく、オペレーションリスクや環境リスク、法規制リスクも入るらしいです。

最後に、

アクチュアリーだけがリスク管理をすることができるというわけではないが、このように広い範囲の技能を使うリスク管理というのは、アクチュアリーの活躍する場だ。

Actuaries are not the only ones that can manage risk・・・but something that uses such a diverse range of skills sounds, to me, actuarial

と締めくくっていました。

全体聞き終わっても“Enterprise”というのが何を意味しているのかまだはっきりしなかったので、
「Enterpriseというのは保険会社や金融機関の枠を超えて、あらゆる種類の企業のことを意味しているようだが、アクチュアリーにERMを教え込んで、その企業のリスク管理の責任者として売りつけようということか」
と質問してみました。

回答は
「保険会社や金融機関以外でも、リスク管理の責任者(Chief Risk Officer)を置いてリスク管理責任の部署を持っている企業は少なくない。このCROは今後多くの企業で必要とされるだろう。だからと言って、たとえば20年後に多くの企業にアクチュアリーがCROとして採用されているということにはならないだろう。」
というものでした。

非常に面白いセミナーでした。興味がある人は、(私の手書きのメモが入ってしまっていますが)プレゼンの資料
http://www.acalax.info/app-def/S-102/wp/wp-content/uploads/2011/erm-seminar.pdf

を見てみて下さい(いかに字が小さいかもわかってもらえると思います)。