Archive for 4月 22nd, 2013

ケインズ・・・11回目

月曜日, 4月 22nd, 2013

前回紹介した第12章ですが、もう少し紹介します。

この章の第4節に、
 『我々は実際には市場の現在の評価は、それがどのような経緯でそうなったにせよ、投資利益に影響を及ぼす事実についての手持ちの知識との関係で見れば一意に正しく、そしてこの知識が変化する場合に限り、評価もまたそれに応じて変化すると想定している。』
という言葉があります。マーケットがどう動こうとニュース番組では、解説者がきちんとこれこれこういう理由でこうなった、と話してくれます。「こんなマーケットの動きはおかしい」なんて話は滅多に出てきません。これが上の文章の『一意に正しい・・・と想定している』ということです。ですから最初から「マーケットは正しい」と想定しての後づけの議論ですから、あまりあてにはなりません。その時その時でマーケットを正当化する議論を考え出さなきゃいけないので、解説者も大変だなと思いますが。

またこのように想定することにより、「ある投資物件の本当の価値を評価するなんてことはとてもできそうもないけれど、何かあったらどっちの方向にどれ位動きそうか・・くらいだったら俺でも評価できると思う」という人達がどんどんマーケットに参加してくるんですね。

ですから、ある投資物件が本当の所どのような価値を持つのかなんてことはどうでも良いことになってしまいます。今の価格が正しいと無条件に想定して、あとはそれが状況の変化に対してどのように変化するかということだけを考えるだけのことですから、
 『人がある投資物件はその期待収益から見て30の価値を持つと信じていても、同時に市場は3月先にそれを20に評価するだろうと彼が信じているのなら、その物件に25の支払をするのはどうかしているからである』
ということになります。

このような観察からケインズは、『賭博場は公共の利益のためには近づきにくく高価につくのが良い』と言って、『イギリスの市場がウォール街に比べて近づきにくく極めて高くついているからまだ罪が軽い』と言っているのですが、今ではロンドンも東京もニューヨークも同じようなものになっているのかも知れません。

ケインズはロンドンのマーケットの「場内仲買人の利ざやの高さ、売買手数料の高さ、移転税の重いこと」を非常に評価しているんですが、その後の現実はケインズの思いとは逆の方向に極端に進行して現在に至っており、デイトレーダーがコストの安さでいくらでも勝負をかけられる賭博場になってしまっているということなんでしょうね。

ここの所、ケインズはわざわざ(注)をつけて
 『ウォール街が活況を呈している時には、投資物件の売買の少なくとも半分は投機家が同じ日に反対取引を行なう意図で遂行されると言われている。』
なんて言っています。今のように一回の間に何回となく反対取引を繰り返すような状況を見たら、何と言ったんでしょうね。

TPP

月曜日, 4月 22nd, 2013

TPPへの日本の交渉参加、ほぼ了解が取れたようですね。マスコミではもう決まったように書いてありますが、まだアメリカの議会の了解が終わっていませんから、まだ「ほぼ」の状況です。

しばらく前、アメリカ政府との交渉で日本が一方的に譲歩させられた・・みたいな話もありましたが、私はこの交渉は大成功だと思っています。いかにもTPPに参加すると貿易の完全自由化を押し付けられるかのような話だったのが、この交渉の結果、アメリカもなりふり構わず自由化には反するいろいろな条件を主張してきた、ということがはっきりしましたから、これは日本が今後本格的に交渉に参加するにあたり、準備作業を進めるにはかなり役に立ちそうです。

保険ではかんぼ生命のがん保険に待ったがかけられた、ということですが、大した話ではありません。かんぽ生命が完全に普通の民間会社になることはなさそうですから、である以上、いろんな条件がつくことは当然の話でしょう。

日本のマスコミの報道では、日本がアメリカを初めとする他の国にいろいろ注文をつけられるという雰囲気になりますが、他の参加国としてはむしろ日本と協力してアメリカに対していろいろ注文をつけたいということでしょうし、さらにはこの交渉を通してTPPに参加していない中国や韓国にも影響を与えたいということでしょう。それを踏まえて、日本も自由にいろんな国と協力して交渉すれば良いんだと思います。

7月に日本が参加しても交渉が終わるまで時間がないから何もできない、なんていう話もありますが、日本が正式に参加することになったら、必要だったらその交渉のスケジュールも変更すれば良いだけです。別に誰かに命じられて交渉しているわけではなく交渉の当事者が全員集まって協議するわけですから、スケジュールにしても交渉のやり方にしても、参加者全員で話し合って必要に応じて変更すれば良いだけの話です。

日本では会議のルールやスケジュールを一旦決めるとその通りにしなければならないという雰囲気になりますが、アメリカやヨーロッパの国が参加する会議では、かなり好き勝手にルールやスケジュールを途中で変更しています。日本もそろそろこのような協議の進め方に慣れる必要があるんでしょうね。