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芦部さんの憲法 その2

金曜日, 8月 16th, 2013

憲法の本を読むようになってしまったキッカケはこの前の参議院の選挙だったのですが、あの時9党の党首の討論会などでも憲法改正が大きなテーマの一つでした。

その憲法改正について、9条の戦争放棄を国防軍に変えるというのが議論になる、というのは良くわかるのですが、野党の福島さんや谷岡さんが96条の憲法改正手続きや97条の基本的人権の所の改正について大騒ぎをしていたのはこの本を読むまでわけがわかりませんでした。この本を読んでようやく何が問題にされていたのかが良くわかりました。

96条の憲法改正の手続きですが、現行の憲法は衆参両院のそれぞれで2/3以上の賛成で発議され国民投票の過半数で改正されるとなっているものを、自民党案は衆参両院の2/3を過半数に変更しようとしています。当時私は憲法は国民のものだから国民の意思を反映しやすくするために自民党の方が良いに決まっていると思っていたのですが、前回お話した立憲主義の立場からするとまるで違ってきます。

憲法の特徴づけの言葉に「硬性憲法」と「軟性憲法」という言葉があります。硬性は(rigid)の訳、軟性は(flexible)の訳のようで、要するに変更しやすい憲法と変更しにくい憲法ということです。で、立憲主義の立場からすると、憲法は変更しにくければしにくい程良い憲法だ、という評価があります。

芦部さんの本には
『憲法が最高法規であることは、憲法の改正に法律の改正の場合よりも困難な手続きが要求されている硬性憲法であれば、論理上当然である。』という文章があります。すなわち、憲法が変更しにくい、ということから、憲法が他の法律の上位に位置することが論理的に当然になるということです。私の論理的という言葉使いからすると、こんなものどう頑張ってみても論理的に当然にはならないんですが、多分法律家には何か特別な考え方があるんでしょうね。

で、そのようなわけでせっかく今の憲法が2/3以上の賛成がないと改正できないようになっているのを1/2以上に引下げて改正しやすくする、などというのは憲法の格を下げることになるので、これは絶対に阻止しなければならないということになるわけです。

私が考えていた「国民投票がしやすくなる方が良いじゃないか」という議論も、前回書いたように多数決の民主主義に対立するのが立憲主義だ、と言われてしまえばまるっきり逆の話になってしまいます。

これで96条改正に猛反対してた訳がわかりました。

もう一つ97条の基本的人権の条が自民党の改正案では削除されていることに対する猛反対ですが、これも何が問題だったか、良くわかりました。もともと今の憲法にも11条から40条まで基本的人権についてはしっかりと書いてあり、その上で最後の97条にダメ押しのような形でもう一度基本的人権が大切だということが書いてあります。一説によるとこの97条は入れる場所が間違っていたのであって、本当は11条の前に持ってこなきゃいけなかったのを、たまたま間違って97条のところに入れてしまったということのようです。

でもむしろ主流の考え方はこの97条の前後には96条に憲法改正の手続きが書いてあり、98条には憲法が最高の法規であってこれに反する法律は無効だ、ということが書いてあり、これらをセットして読むことにより97条は基本的人権については変更してはいけないという意味でここに書いてあるんだということのようです。

外国の憲法には、「○条の規定は大切なので変更してはいけない」なんて条文があるものがあるようですが、日本国憲法ではそのような条文はありません。そのため形式的にはどの条文も改正してよいような形なのですが、立憲主義の立場からするとそんなわけには行かなくて、変えてはいけないと書いてないとしても変えてはいけない条文がたくさんあるようです。

で、そのような日本国憲法でも、念押しのために実質的に変えてはいけないと書いてあるつもりの97条の規定を自民党案ではアッサリ削除してしまったんですから、これは見過ごすことはできません。変えてはいけない規定を変えてはいけないと書いてあるつもりの規定を削除したということは、変えてはいけない規定を変えようとしているんだろう。さらに言えば、変えてはいけない規定を削除しようとしているかもしれない、ということで、猛烈に反対したんだなということがようやくわかりました。

これらの議論はこれから憲法改正の議論が本格化する中でまた取上げられることになるはずですから、その際の議論をきちんと理解するためにもこの本を読んで良かったなと思います。

福島さんは東大法学部出の弁護士さんですから、立憲主義のことはよくわかっているはずです。谷岡さんの方はどこまでわかっているのか良くわかりません。

でも改憲反対派の人達も、もう少しこの反対の理由をきちんと説明してくれればわかりやすいのですが、理由をはっきり言わないで反対となると、運よくこの本を読むことができて、その理由がわかったのはラッキーでした。