この前の前の『無条件降伏』という記事で書いたように、ひょんなことから憲法の教科書を読むことになってしまいました。
で、何とか400ページ位の本を読み終わったので、せっかくですからこれからしばらくその本についてコメントしたいと思います。
ケインズほどは長くはならないと思いますが、やはり2-3回では書き切れないほどコメントしなければならないいろんなことがあります。
自民党が衆院選・参院選とも勝って、憲法改正の話が当然のように出てきますが、この憲法改正に正面から反対するのは法律家の人達です。ですから法律家の人達がどのように考え、どのような言葉を使うか(あるいは一般的にも良く使われる言葉をどのような特別な意味に使うか)知っておかないと、議論がまるで噛み合わないということになってしまいます。そのためにもここでコメントしておくと役に立つのではないかと思います。
この本を読んで、読む前に漠然と思っていた憲法と、法律の専門家が考える憲法とは、まるで違ったものだということがわかりました。最初はわけがわからなくてちょっと大変だったのですが、慣れてくると面白い発見がたくさんあって楽しく読めました。
で、私が読んだのは芦部信喜という大先生の書いた「憲法―第5版」(岩波書店)という本なのですが、これが司法試験その他の標準的な教科書になっていて、専門家の間でも標準的な憲法論あるいは憲法学の本だということになっているようなので、私としては学者になるつもりも法律家になるつもりもないので憲法についてはとりあえずこの本だけで良いかなと思い、特に必要のない限り他の憲法に関する教科書や専門書を読まなくても良いかなと思っています。
そのため私のコメントもタイトルとして、「芦部さんの憲法」ということにします。
まずこの本を読むにあたり最初に思ったのは、法律家の専門家は法律の勉強を一生懸命にする分、日本語の勉強はあまりしないんだろうな、ということです。かなり不思議な日本語を平気で使うんですが、それはそんなもんだとわかってしまえばどうということはありません。言葉の意味は普通とは違うけれど文の構造は普通の日本語と同じなので、一つ一つの言葉の意味を「この言葉はどんな意味で使っているんだろう」と考えながら読んでいけば良いだけですから。
ケインズを読んだ時の、古典派の経済学者(ケインズの後の経済学者も同じようなもののようですが)が、言葉の定義をしないで議論するという厄介さは、芦部憲法ではそれほどありません。一応ある程度は言葉の意味を説明しようとはしているようですから。とはいえ、突き詰めた所では言葉の意味は不明になってしまいますが。
次にわかったのは、法律の専門家は論理的思考の訓練を受けていないようで、芦部さんの本を論理的に読もうとしてもうまくいかない、ということです。しかし困ったことに法律の専門家自身は自分達のやっているのを論理的思考だと思い、書いているのを論理的な文章だ、と思っているのでちょっと面倒です。
で、論理的な体裁の論理的でない文章をしばらく読んでいてわかったのが、これは「信仰の書」だということです。そのように考えれば全てが納得できます。信仰の書だからこそ、そこから「・・・すべきだ」とか「・・・でなければならない」という行動規範のようなものが出てくる、というわけです。
ここまでわかればその前提で読んでいけば良いので、かなりスムースに読むことができます。もちろん私はその信仰を受け入れているわけではないので所々これはおかしいなと思う所は出てくるのですが、そのおかしな所もその信仰を前提とすればこういう結論になるのは理解できる、ということになります。
で、この憲法の本で最初に出てくる重要な言葉が「立憲主義」という言葉です。
私などは「立憲君主制」なんて言葉からの連想で、この「立憲主義」というのは、国の基本的なありようとかルールとかを憲法という形で明確にし、それにもとづいて法律を作ったり国の組織を作ったり国政を運営していく、という考え方のことだと思ったのですが、これが全く違いました。
芦部憲法によると「立憲主義」というのは次のような意味です。すなわち憲法というのは基本的人権をもとに作られたもので大事なものだから簡単に変更できるようなものであってはならない。特に基本的人権に関する部分は絶対に変えてはならない。そのためには多数決原理に基く民主主義であっても否定しなければならない。これが「立憲主義」という考え方だ、ということです。そして「立憲主義」に基かない憲法は、たとえ憲法という名前がついていてもそれは憲法ではない、ということです。
「立憲主義」という言葉でこんな意味を表すなんてことは想像もできないことなのでビックリしますが、憲法の世界ではこれが当然のことで、法律家の世界は憲法がその大元となっているので、法律家もみんなこのような考え方を受け入れているということになります。
憲法の中に民主主義を否定する考え方が正々堂々と登場するというのはびっくりしました。
以下、しばらく連載が続きます。