Archive for 4月 16th, 2014

藤澤陽介『すべては統計にまかせなさい』

水曜日, 4月 16th, 2014

有料のメールマガジン『inswatch』に毎月1回記事を連載してもらっているのですが、3月31日の記事を転載します。
とりあえず、もう半月たったから、まあ、いいかな、とも思いますし、アクチュアリー関連の記事はあまり見る人も多くないので、まあ、いいかな、とも思い、転載します。

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 2014年3月
藤澤陽介『すべては統計にまかせなさい』

いよいよ平成25年度も今日で終わりです。今のところ、国債の利回りも0.6%台で推移し、為替も円安のままですから、生保各社の決算は今期も見てくれのいい結果になると思います。とりあえずは何よりです。

ところで、ライフネット生命のアクチュアリーの藤澤さんが『すべては統計にまかせなさい』というタイトルの本を出しました。この2月に発行されたばかりの新しい本です。この本の紹介をします。
タイトルの『すべては統計にまかせなさい』は、少し前に出てベストセラーになった『統計学が最強の学問である』のまねをして出版社が付けたものだと思うのですが、本の中身はこのタイトルとはまるで違います。
アクチュアリーというのは保険会社や銀行なので保険料を計算したり年金の計算をしたり、金利計算をしているのですが、この本ではそこで使われる統計学について、わかりやすく説明しようとしています。なお、著者は統計学、という言葉でなく統計、という言葉を使っているのですが、内容的には統計学、という言葉を使う方が普通だと思います。
統計学というのは、ちょっととっつきにくく、理解しにくいものですが、様々な例を使ってなんとかわかりやすく説明しようとしている本で、その分、正確さにはちょっと欠けます。正確でなくてもいいから読者をなんとなくわかったような気にさせようとしている本です。そのついでにアクチュアリーという人たちがその統計学を使って何をしているのか、ということについても同様に、正確でなくてもなんとなくわかったような気にさせようとしているようです。その狙いがうまくいっているかどうかについては、読んでのお楽しみ、というところです。
統計学やアクチュアリー学についてちゃんとした正確なことを知りたい人は、普通の教科書や紹介されている参考文献を読んでください、ということで、教科書を読みながらこの本のどこが正しくてどこがいい加減か確かめてみる、というのも面白いかもしれません。あらかじめこの本を読むことによっていろいろな言葉を知ることができるので、その分教科書を読むハードルが低くなるかもしれません。
アクチュアリーは保険料の計算の仕方など、保険数理の解説の本を書くことはありますが、統計学について本を書く、というのは珍しいので、面白いかもしれません。
この著者はアクチュアリーとしては変わった人で(一般にアクチュアリーというのは変わり者、というのが通り相場ですから、その中でも変わり者、というのはとんでもなく変な人、という意味か、かえって普通の人に近い人、という意味かは、読んでみて判断してください)、珍しく外向きの(アクチュアリー以外の様々な人とコミュニケーションをとることが好きでそれを大切にしている)人のようです。
一方、優秀な成績でアクチュアリー試験に合格し、海外に留学もしている人ですが、後輩のアクチュアリー試験受験者を支援する『アクチュアリー受験研究会』の会長もしている、ということです。
著者の勤めるライフネット生命は今年度に入ってから業績が低迷し、株価も期首の800円台から先週は400円を切りそうになるまで下落しています。会社の現状については有名人の会長でも社長でもなく、アクチュアリーである著者が一番よくわかっているはずで、その現状認識に従って商品戦略、経営戦略を立てるのもこの著者です。
その戦略がうまくいってライフネット生命の業績が回復するといいな、と思います。

ライフネット生命の保険料率改訂

水曜日, 4月 16th, 2014

ライフネット生命が4月1日に料率改訂のニュースリリースを出しています。
これはエイプリルフールの冗談ではなさそうなので、ちょっと見てみました。

5月2日の予定で料率改訂をして保険料を下げるということです。

以前ライフネット生命は「生命保険の原価の開示」と称して、営業保険料の内訳としての純保険料と付加保険料を開示し、また付加保険料をどのように計算したのか、1件あたりの付加保険料・営業保険料あたりの付加保険料率・純保険料あたりの付加保険料率を開示しています。

今回は営業保険料の内訳としての純保険料と付加保険料の開示は行なっていますが、その付加保険料をどのように計算しているのか、という部分については開示していません。ちょっと計算してみた所、付加保険料の計算方式はこれまでのものとは違っていることは確かです。また定期保険と医療保険で違うものを使っていることも確かです(これまでは同じ計算方式を定期保険にも医療保険にも適用していました)。

まず定期保険ですが、商品はそのままで保険料を変えると言っています。この言い方では既契約の保険料は変更後の保険料率を適用するのか、今までの保険料率を適用するのか、わかりません。

またおおむね男女とも保険料は安くなっているんですが、一部若い女性の所は逆に保険料が高くなっている部分もあります。

いずれにしてもせいぜい1割程度の保険料の引き下げですから、あまり大きく変化したわけではありません。

医療保険の方は結構大幅な変更です。

純保険料は2割程度引き下げ、付加保険料は3割程度引き下げて、全体として営業保険料を24%程度引き下げたということのようです。

医療保険の方は今までの商品を売り止めにして新しい商品を売り出すということですから、既契約については保険料を引き下げることにはしないんだろうな、と推測します。

でも終身保障・終身払の保険料が2割5分も安くなるのであれば、健康状態に問題がない人は今までの契約をいったん解約し、新しい商品に入り直した方が得になるかも知れません。

古い商品の方はその結果、健康状態の良くない被保険者だけが残ることになると、今までの高い保険料でも収支が釣り合うのかどうかわかりません。

いずれにしてもライフネット生命は既契約者に対してどのような通知をしているのか、気になります。もし新規に入り直したら保険料が安くなるのに、何も知らせずに放っておくとしたらちょっと問題かも知れません。

私もアイエヌジー生命にいた時は、何度か保険料の改定を経験しましたが、保険料を安くするというのはなかなか厄介な話でした。昔ながらの有配当の契約であれば、古い契約の保険料を引き下げなくても保険料の高い分は配当で還元します、ということで、契約者間の公平性の問題は何とか解決することができるのですが、無配当の商品ではそのような手段が使えないので、前からの契約者と新しい契約者との公平性を担保するのに苦労した覚えがあります。

ライフネット生命は解約返戻金がないのでちょっと気楽ですが、その当時のアイエヌジー生命は解約返戻金がありましたので、保険料の方と解約返戻金と両方考えて辻褄を合わせ、前からの契約者が不利にならないようにいろいろ工夫した覚えがあります。

その当時は無配当のいわゆる外資系生命保険会社という会社ではこの問題は共通の問題で、皆でいろいろ知恵を出し合ったりしたのですが、今のライフネット生命にはそのような経験をした人がいるとも思えません。その分、かなり苦労したんだろうなと思います。

いずれにしても営業保険料を引き下げ、付加保険料も引き下げていますから、会社の収益は当然かなり悪くなります。これの元を取るためには、保険料が安くなった分たくさんの新契約を取らないとならないのですが、平成25年度中一貫して低迷した新契約成績を回復するだけの新契約を獲得するのはかなり難しそうな気がします。

一方保険料を引き下げて、既契約(の一部)が一旦解約されて新規の契約に入り直すとすると、表面的には新契約が増えます。その分解約が増えるので、保有契約は増えませんが、既契約の解約に伴う解約益が生ずるので(解約される契約は解約返戻金はありませんが責任準備金がありますので、その責任準備金の丸々が解約益になります)、一時的に収益が良くなったように見えるかも知れません。といっても実際一時的なものでしかないので、ライフネットの収益体質を変えるものではありませんが。

ということで、今後ライフネットの契約成績・収益がどのように変化していくのか、注目したいと思います。

『仕事に効く教養としての「世界史」』

水曜日, 4月 16th, 2014

ライフネット生命の会長の出口さんの本が話題になっています。別に急いで読むこともないので図書館に予約をしていたのですが、会社に遊びに来た友人がそれならこれを・・と読み終わったものを置いていってしまったので、仕方なく読むことにしました。図書館の本だと書き込みなどしないで綺麗に読むのですが、個人の本だと書き込みで赤くしてしまうかも知れないよ、と言ったのにそれでも構わないと言われてしまい、この週末に読んでみました。

本のタイトルは『仕事に効く』となっていますがもちろんこれは単なる誇大広告で、単に『ひょっとすると仕事に役立つことがあるかも知れないよ』という程度の話です

中味は世界史の本というよりは、出口さんが今まで読んだ世界史の話から所々つまみ出してゴタ混ぜにしてそれをおしゃべりにしている、テレビのバラエティー番組のような世界史の本です。これを読んだからと言って世界史の勉強をしたことにはなりそうもないですが、世界史を勉強しようというキッカケにはなるかも知れません。

中味はごく普通の、中国史とヨーロッパ史を中心とする世界史の大きな流れの中に、キリスト教の話・シルクロードの話・トルコ人の話などが入っています。日本の中学校・高校の世界史と同様、アヘン戦争で歴史は終わって、その後はいきなり戦後の日本の高度成長になっていますから、第一次大戦も第二次大戦も、日清日露の戦争も日韓併合も、メンドクサイ話は入っていません。
『地域』と言えば良いのに『生態系』と言ってみたり『コロンブス』をわざわざ『コロン』と言ってみたり、所々言葉使いを普通と変えて新鮮さを演出しようとしているようですが、わざとらしさを感じてしまう所もあります。

この本は出口さんがライターに話したことを、ライターが本にまとめたもののようです(とは言ってもゴーストライターじゃなく、ちゃんと名前を出したライターです)。原稿ができたあと、出口さんが校正に参加したかどうかわかりません。もしかするとライターさんに対する礼儀上、話が終わったら、あと原稿を書いて校正する所までライターさん任せで、話をした人は口を出してはいけないのかも知れません。所々おかしな所もありますが、ライターさんが書いたものだけあって、気が付かなければすんなり気持良く読むことができます。そのあたりも何も考えずに見ていられるバラエティー番組に良く似ています。

最初のうちは何ヵ所か赤で書き込みをしてしまったのですが、後半はそんなこともせず読み終えてしまいました。書き込みをするほどの本ではないということです。こんなことなら最初から書き込みなどせずに、綺麗に読めばよかったなと思いました。

これで、この本を貸してくれた友人へのとりあえずの義理を果たしたことになるでしょうか。