Archive for 8月 29th, 2023

『錬金術の歴史』―池上英洋

火曜日, 8月 29th, 2023

私が今まで読んだいろんな本の中に『錬金術』という言葉は何度となく出てきました。

言葉だけ出てくる場合もあり、また錬金術について多少の説明やコメントが付いている場合もあります。いつかきちんとまとめて錬金術について書いた本を読んでみたいと思っていたら、この本が図書館の『新しく出た本』コーナーに入っていたので、早速借りて来ました。

『錬金術』というのは、金でない物を金に変える技術、あるいはそのための薬品のことで、この薬品は『賢者の石』と呼ばれることもあり、それを飲むことにより不老不死になることもできる、というようなものです。

古代エジプトやメソポタミアの神話から始まり、ギリシア・ローマの神話の世界とプラトン・アリストテレスの哲学の世界を一神教のキリスト教の世界と統合しようという企てですから、とてつもない話です。

そのため錬金術の本に書かれていることは、隠喩、寓意、たとえ話、等々が盛りだくさんで、それを読み解くために特殊な知識と工夫が必要です。文章だけじゃ分かりにくい所を絵で説明することもあるのですが、この絵自体が何とも訳のわからないもので、この太陽と月は何を意味にしていて、この鳥はこんな意味で、この雨はこんな意味だなんて、いちいち絵解きをする必要があります。

王様と王妃が一緒になり、殺され、焼かれ、復活し、また一緒になって、殺され、焼かれ、復活し、というプロセスを何度も繰り返すことにより次第に純粋な完全に存在になっていく、という話が絵になっています。

とは言えその絵解きの文章が訳の分からない物ですから、分からない人にはいくら読んでもわかりっこありません。それでも基本的な知識をもって何度も繰り返し読み、また実験を繰り返せばわかってくることもある、という事のようです。

ギリシャの四大元素、すなわち『土・火・水・空気』の組合せで全ての物質を説明する考え方に、『熱・冷』、『乾・湿』の2つの性質を組合せ、それらの組合せを完全にバランスのとれたものにする事により、金でない物を完全に金にすることができ、あるいは人間であれば完全なほとんど神と同様の不老不死の生き物になれる、ということのようです。

『熱・乾』の要素として硫黄、『冷・湿』の要素として水銀を用い、様々な物質に硫黄と水銀を加え、交ぜ合わせたり熱したり冷やしたり蒸留したり煮詰めたり、これを何度も繰り返して少しずつバランスを完全なものに近づけていくプロセスが、不思議な絵と文で説明されていきます。

面白いことに、キリスト教では最後の審判によって死んだ人も生き返って天国に行くことになっているのに、キリスト教の高位聖職者であってもそれを待たずに『賢者の石』を服用して不老不死になろうとした人もたくさんいた、という話もあります。

ローマ教皇も、代替わりの都度、何度も錬金術を推奨・支援したり、代が変われば異端として禁止してみたり、を繰り返していたようです。

『錬金術』というのは古代エジプト・メソポタミアにもあり、あるいは古代中国にもあったものですが、この本で取り上げているのは古代ギリシャの錬金術が、ローマ帝国の滅亡によりイスラム世界に伝えられ、それが十字軍によりヨーロッパに伝えられ、ルネサンスでギリシャ神話の世界、プラトン・アリストテレスの哲学とキリスト教神学を統一する、という考え方の一部として独特に発展させられたものです。

この本の中ではルネサンスを代表してレオナルドダヴィンチも登場し、また宗教改革による新教徒・旧教徒の殺し合いでルネサンスが終了した後の世界の最後の錬金術師としてニュートンも登場します。ニュートンの書斎が飼い犬の起こした火事のために多くの書類を焼いてしまった後、残された書類がニュートンの死後長く封印されていたものを200年後に子孫がオークションにかけ、その多くを競り落とした経済学者のケインズが数年かけて解読し、ニュートンを『最後の魔術師』と呼んだ、という話もあります。

またフリーメーソンというのが元々石工・建築家のギルドであり、その中で職人から親方への昇進の儀式についても詳しく説明してあります。即ち一旦親方衆によって殺され、その後、親方の一人として復活する、ということを模倣する儀式だ、ということです。

本文360ページで、1つの絵で1頁まるまるを占める部分が50頁もあり、それを含めて全部で150を超える図が入っています。その図の説明は何とも訳の分からないものですが、それなりに楽しめます。

西洋の錬金術というのがどういうものか、その中に隠れている、キリスト教の中では異端として否定されているグノーシスという考え方がどういうものか、うまく整理して説明してくれています。

理解するのはほぼ不可能だと思いますが『こんなものだ』と読むだけなら楽しめるかも知れません。

興味があったら読んでみて下さい。

『朝日新聞政治部』―鮫島浩

火曜日, 8月 29th, 2023

この本は、1年前に出た時にちょっと話題になった本で、一応どんなものかと思って図書館で予約し、1年経ってようやく借りて読むことができたものです。

この鮫島さんという人は元朝日新聞の記者で、一番有名なのは福島原発の吉田調書のスクープ事件で、福島原発の事故の時の吉田所長の調書を手に入れ、それをとんでもない解釈で朝日新聞の1面トップにのせた、捏造記者、ということで有名な人です。それ以外でもいかにも朝日新聞らしいとんでもないネットの発言で有名な人です。

この本はいわゆる『意識高い系の若者』(どうもこの手の人は、歳をとっても若者以上には成長できないようです)が何をどう考えているか、を知るのに恰好な本になっています。

自分がいかに自分より偉い人に正面からぶつかっていったか、それによって従来のやり方をどのように変えさせていったか、いかに多くの偉い人を知っているか、自分がいかに不当にいじめられてきたか等々、意識高い系の生態が本人の筆で生き生きと表現されています。

本当に自分にとって痛手になるようなことはあえて言及せず、それほどでもない失敗について書きながら、いかにも、自分の失敗を正直に書く自分って凄いだろう、という意識がありありです。

この人が吉田調書問題で社内で事情聴取されている時、『自分が信頼を寄せていた会社が組織をあげて上から襲いかかってくる恐怖は経験した者にしか分からないかも知れない。』と書いていますが、別に今の時代、殺されるわけでもないのに、嫌ならさっさと会社を辞めてしまえばいいだけなのに、意識高い系が、偉そうなことを言いながらいかに自分が属する組織にべったりしがみついているか、良く分かる言葉です。

この人は結局停職2週間、記者としての職を解かれ知的財産室という所に配属され、そこで初めてネット上で朝日新聞がどのように扱われているか見るようになった、という事もかいています。それが2015年の事ですから、それまでほとんどネットを見ないで朝日新聞しか見ていなかった、ということのようです。

『朝日新聞記者の大半は毎朝起きてまずは朝日新聞を読む』と書いています。こんな物を朝一の一番頭が冴えている時に毎朝読んでいたら、頭がおかしくならない訳がありません。納得できる話です。

著者は吉田調書問題で会社の処分を受けながら会社にそのままとどまり続け、記者の身分もすぐに回復してもらい、相変わらず問題を起こし続けて、2021年にようやく会社の早期退職の募集に応じて朝日新聞をやめます。そこまでしてしがみつきたい会社だったというより、会社をやめたらどうして良いか分からなくて不安だったと、ということでしょうね。

早期退職に応募してすぐに有給休暇に入り、約3ヵ月にわたりネットに『記者辞めます』と宣言して、そこに至る事情を毎日書き連ね、退職日に会社から貸与されていたパソコンと社員証を会社に返しに行った、なんて話を自慢そうに書いていますが、退職日が決まりそれまで有休消化が決まっている人にそのまま社員証とパソコンを持たせておくというのも、朝日新聞自体が意識高い系の役立たずの会社だ、ということの現れだと思います。

これを読んだ所で何の役にも立たない本ですが、このような内容の意識高い系の人の自画像に興味がある人にはお勧めします。

中国

火曜日, 8月 29th, 2023

中国の不動産会社の破産や投資信託の不払いで中国は大変だというコメントが蔓延しています。
はじめは何となくそうかな、と思っていたのですが、その後、ちょっと違うかなと思うようになったのでコメントします。

中国、というのは現在、中国共産党が支配している中華人民共和国のことです。日本などの一般の民主主義国では国は国民のための国ですが、中国は支配している共産党のための国です。共産党のためであれば国民の犠牲は厭わない国です。

不動産会社が破綻したり投資会社の不払いで損をするのは国民なので、一般の民主主義国では破綻処理とか投資家保護とかいろいろしますが、中国では不動産会社の破綻や投資信託の不払いで損をするのは、その余裕のある金持ちだけです。金持ちが損をしても、金持ちでない国民からするとザマーミロということで、何も困ることはありません。とすれば中国を支配する共産党としても、金持ちをわざわざ保護する理由はありません。金持ち以外の国民のうっぷん晴らしに、金持ちに損をさせたままにしておくことです。

その意味では不動産会社の破産も投資信託の不払いも株価の下落も特に気にするような話ではなさそうです。

しかし不動産会社の破綻や投信の不払いで困るのは、金持ちだけでなく、地方政府や軍まで被害を被る、となると話は別です。まあ地方政府だけならともかく、地方政府の損がその地方の一般の国民にしわ寄せされるとか、軍の損が軍人一般の損になるとなると、政情不安ということになります。

不動産会社の破綻や投信の不払いがどこまでいったら一般国民にまで影響を与えるようになるのかわかりませんが、当面様子見を続ける必要がありそうですね。

中国は、共産党にホコ先が向かってこない限り、国民が何億人死のうと平気な国です。
この基本を忘れちゃいけないですね。