この本でいう『弱者』というのはヨーロッパ諸国のことです。
いわゆる軍事革命論と言うそうですが、『ヨーロッパがアメリカ・アジア・アフリカを制覇し、世界全体を支配するに至ったのは高性能の兵器、それを用いた優れた組織、それを用いて海外の敵と戦って勝ったためだ。ヨーロッパ人はヨーロッパの中で互いに戦争し、その競争を生き延びる過程で学んだ戦争の技術を持っていたため、ヨーロッパ外の国でもそれを用いて世界を制覇したんだ』というような、一般に受け入れられている議論を、これは全く誤りで、歴史的事実とも異なるということを実証している本です。
確かにヨーロッパ諸国は互いに戦争し合い、その過程で軍事技術を高度化し、大軍を使ってする戦争という方法を開発してきましたが、それはヨーロッパ外でのヨーロッパ勢の戦争あるいはその地球の征服とは全く関係がないという話を、アメリカ・アジア・アフリカ・中近東(オスマン帝国)のそれぞれについて実証的に解説してくれている本です。
ヨーロッパは戦争に強かったわけではなく、武器(大砲や機関銃)の優位もあっという間に追いつかれてしまい、ヨーロッパの外では大軍を使った戦争をしたわけでもなく、ヨーロッパ外の地域に進出できたのは、まずヨーロッパ人が現地人に臣従する形で関係を構築し(イギリスの中国進出の際、イギリスは中国皇帝に臣下の礼をとった、というのはよく知られています。)、現地勢力間の争いに乗じて勢力を強めていった、とか、現地勢力は内陸の支配に関心を持っていて、もっぱら海運・港湾等にしか関心を持たない西洋諸国には無関心だった、とか、武器も西洋諸国が大砲等を持っていてもすぐに真似されたり、現地勢力が西洋人を傭兵として使ったりして、優位性はすぐになくなってしまった、とか、そんな話ばかりで、たとえばオスマン帝国が負けたのは、クリミアでロシアに負け、また第一次大戦でドイツ側についたために英仏に負けた位の話だ、とか、一つ一つもっともな話です。
ところがこんな話は日本人やアジア人が主張してもヨーロッパ人は聞く耳を持たないでしょうから、ヨーロッパ人のちゃんとした学者が客観的に説明してようやく欧米人の耳にも入るんだろうなと思います。
アメリカの話では、疾病と現地勢力同志の争いがヨーロッパ人の優位の原因だったこと、アジアではヨーロッパ人はもっぱら香辛料貿易にしか関心がなかったこと、オランダとイギリスの東インド会社は主権国家ならぬ主権会社という存在だったとか、どちらの会社も実態は破産状態で、イギリスは仕方なく国家で東インド会社を国有化して破産を回避し、アヘン戦争でようやく収支を立て直したとか、アフリカでも現地勢力の奴隷売買を利用してヨーロッパ人がヨーロッパ・アメリカへ黒人奴隷を輸出したんだとか、具体的な話がきちんと紹介されています。
日本が太平洋戦争に負けて常勝日本の神話から脱却したように、ヨーロッパもようやく最強神話から覚めようとしているのかも知れません。
南北アメリカ・南アジア・アフリカ・中近東にわたってバランスよく何が起こっていたのか、解説してくれる本です。
ヨーロッパの中で帝国主義、『帝国だということが大国の証だ』なんて考えが広まって、小国のベルギーまでアフリカに大植民地を作ろうとしたなんて話もなかなか面白い話です。とはいえ、考えてみればイギリスも、イギリス本土だけなら大して大きな国ではないのにあの大英帝国を作った、と思えば、ベルギーが大帝国になることを夢見たとしても不思議じゃないかもしれません。
この本を読んで、ヨーロッパ各国による大植民地時代というのは本当は何だったのか、考え直してみるのもいいかもしれません。
お勧めします。