Archive for 3月 24th, 2015

『私の昭和史』 末松太平著

火曜日, 3月 24th, 2015

この本の著者の末松太平さんという人は、戦前のいわゆる青年将校と呼ばれる人の、いわばリーダー格の一人で、5.15事件の前から2.26事件にかけての様々な場面を経験しているのですが、たまたま幸か不幸か直接的にテロには参加する機会に恵まれず、2.26事件で青森から中央に対して意見を言ったり電報を打ったりしたことを咎められ、有罪になって陸軍を追い出されている人です。

いわば2.26の生き残りの一人が、昭和38年になってその当時の青年将校を取り巻く上官や兵隊たちの生きざまを活き活きと書いています。

2.26事件のいわば神がかり的な青年将校たちとは違って、いたって冷静に状況を見て行動したことを記録したものです。

著者が幼年学校(陸軍士官学校に入る前に中学2年生位で入る学校)に入る所から始まり、満州事変・5.15事件・相沢事件から2.26事件、最後は著者と同じく青年将校のリーダーだった大岸さんという人が戦後変な宗教にはまって、ついには死に至るのを見届けるまでが書かれています。

登場する青年将校達が生き生きとした青年として描かれています。彼らが何を考え、何をしようとしていたかが良く分かります。

この本は三島由紀夫が激賞したということですが、文学としても十分読み応えのある本です。

文庫本で上下合わせて本文だけで500ページ強の本ですが、楽しく読めます。
2.26事件の青年将校たちについて興味がある人には是非ともお勧めです。

『地獄である』

火曜日, 3月 24th, 2015

昨日(3月23日)の日経新聞朝刊の40ページに全面広告でバカでかい活字で『地獄である』なんてのがありました。一体何だろうと思ったら、『一人一票実現国民会議』という名前で、弁護士の升永英俊という人が出している広告のようでした。

いわゆる一票の格差の問題について主張しているもののようなんですが、何ともはやの論理展開で、やはり弁護士さんは論理的思考ができないんだなと思ったのですが、面白いので紹介します。

  1. 最高裁の裁判官のうちの何人かは、参議院選での一票の格差の問題で、選挙は違憲状態にあると判断しており、違憲状態にある選挙で選ばれた国会議員には正当性がない、と言っている。
  2. 最高裁の判決では衆議院選は違憲状態にあり、選出された議員は正当性がなく、その議員を含む内閣には正当性がない。
  3. 裁判官はその正当性のない内閣により任命されているので、裁判官も正当性がない。
  4. 正当性のない裁判官が死刑の判決をするのは、人の道に背く。自分が仮にその正当性のない裁判官であったら、たとえ自分が殺されても実刑判決はしない。
  5. 正当性のない裁判官が死刑判決を言い渡し続けているのは地獄である。
  6. この地獄を止める唯一の方法は(一票の格差に関して)違憲無効判決を言い渡すことである。
  7. アメリカでも州議会選挙で972倍もの一票の格差があったのを、連邦最高裁判所の判決で一人一票になった。

ということのようです。
何ともはや、ツッコミどころ満載の支離滅裂の議論ですね。

正当性のない最高裁判所の裁判官が違憲無効判決をすれば全て解決する、というのはどういう理屈によるんだろうと思います。こんな訳の分からない人が裁判官でなくて良かったな、と思いました。

それにしても日経新聞の1ページ全部の広告ですから、結構お金がかかったんじゃないかなと思います。

この弁護士さんが、今全国で行われている一票の格差問題の選挙違憲裁判の中心人物のようです。
よっぽどお金と暇がある人なんでしょうね。

『昭和陸軍秘録 軍務局軍事課長の幻の証言』

火曜日, 3月 24th, 2015

しばらく前 『昭和戦争史の証言 - 日本陸軍終焉の真実』 という本を紹介しました。
この本はその本の著者(西浦進)と同じ人の本なのですが、前に紹介した方は著者が終戦後忘れないうちと思って資料もない中記憶を頼りに書き綴ったもので、今度の本の方は戦後20年以上たってから『木戸日記研究会』という所が著者に聴き取り調査(インタビュー)したものをまとめたものです。

口頭での質問に対して口頭で答えているのを書き下ろしているものですから、ちょっと雑駁な所もありますがその分気楽に読めます。

内容的には前に紹介した本と同様、西浦さんが軍人を志したところから始まって、戦前・戦中の軍人(主として陸軍省勤務)としての経験をまとめたものです。

前の本は西浦さんの問題意識にもとづいて書きたい(書いておきたい)事が書かれていたのですが、今度の本は聴き取り調査する方の問題意識にもとづいて質問が用意され、それに答えるという形で進行します。直接自分で書くというのと違って口頭のヒヤリングですから、答え方もかなり気楽に話しています。

聴き取りが行われたのが1967年9月から1968年2月までの期間で、西浦さんは1970年にはもう死んでしまっていますから、その意味でも貴重な記録です。

また本にするとなると省略されてしまうような細々とした話も、おしゃべりでは省略されないで出てきますので、なかなか面白いです。

これを読んで、やはり第二次大戦においても日本の対応については、ロシア(ソ連)の存在感が大きいんだなと良く分かりました。

またアメリカに物資を押さえられ、仕方なくインドネシア(この本では蘭印と言っていますが)に石油を取りに行くのですが、これが実はドイツがオランダに攻め入ったのがきっかけだ、というのも初めて知りました。要するに、ドイツがオランダに攻め入ったので、オランダ領のインドネシアの石油はドイツに押さえられてしまうかも知れない、あるいはオランダの亡命政府がイギリスに逃げたので、イギリスに押さえられてしまうかも知れない、となったら、日本が先に押さえておかなければ・・という話のようです。

その後石油は無事に手に入れたにもかかわらず、船がなくてせっかくの石油を日本に運ぶことができなかったとか、陸軍と海軍で船の取り合いをしてどうにもならなかった・・なんて話もあります。

また太平洋戦争が始まる前、英米不可分論と英米可分論というのがあって、イギリスと戦争してもアメリカと戦争しないで済むだろうか、イギリスと戦争するとアメリカも一緒に敵に回すことになるんだろうか、とかなり議論があったということも分かりました。

この西浦さんは、東条英機が総理大臣になり陸軍大臣を兼任した時に半年間陸軍大臣秘書官になり、その前後も陸軍省の役人として東条英機と仕事をしている人なので、その話もなかなか面白いです。

戦争の話は何となく参謀本部がやりた放題・・みたいな印象がありますが、陸軍省や政府との主導権争いのやり取りなど、そう簡単な話でもないことも分かります。

ちょっと分量はありますが(400頁強で二段組みになっています)、お勧めします。