ケインズ・・・9回目

4月 11th, 2013

さて続く第4編では、投資で所得を増やすためにどうやったら投資を増やすことができるか、そもそも投資が増えたり減ったりする要因は何かについて議論します。

最初に出てくるのが「資本の限界効率」という言葉です。何のこっちゃと思って読むと、これは投資した額に対してその投資の結果得られる収益の利回り、投資の世界で言う内部収益率(IRR)とよばれるものです。

ケインズの時代はともかく、今となってはもうこんな資本の限界効率なんて言葉をやめにして収益率にすれば良いのにと思うのですが、経済学の世界では未だにケインズに敬意を示してこの言葉を使い続けているようです。

で、この言葉の定義ですが、投資のために使うお金を「供給価格」と言い、その投資から得られる将来の収益を「期待収益」と言い、その期待収益の割引現在価値が供給価格と等しくなるような利率を、その投資に使った資本の「限界効率」ということになっています。

ケインズは結構細かい所までちゃんと考える人にようで、『一般理論』の全体を通じて将来のことは確定しているわけじゃないという意味で、全て「期待」という言葉を使っています。

この「期待」という言葉、日本語として本来の意味は、たとえば「今度のオリンピックがんばって下さいね。金メダル、期待してます」なんて使い方なんですが、英語ではexpectationという単語が使われています。このexpectationの方は「何とか予選は勝ち抜いてくださいね」とか「もしかすると1回戦で負けちゃうかも知れないね」とかも全てexpectationです。ですから日本語にするのであれば「期待」というより「見込み」とか「見通し」とか「見積り」と言ったほうがしっくりくるかも知れないのですが、勿論時には「期待」という意味で使ったりもします。

そこで英文を日本語に訳すときに訳者は悩むのですが、expectationをその場面場面でそれぞれ適切な日本語にしていくと元々原文で同じ言葉を使っていたということがわからなくなってしまい、一つの言葉を何通りにも違った言葉に変えてしまうことになります。それはまずいというので、一つの原文の単語はできるだけ一つの訳語に統一しようとすると、日本語としてちょっと意味が違ってきてしまいます。

『一般理論』の正式名称「雇用、利子および貨幣の一般理論」の最初にある「雇用」という言葉も同様です。原文ではemployment(動詞ではemploy)という言葉で、確かに「雇用」という意味ではあるのですが、それだけじゃなく、この原料を使ってこの設備を使ってこの製品を作ります・・・なんて時の「使って」というのも時としてemployという言葉で表現されます。この原料を雇用してこの設備を雇用してこの製品を作ります・・・なんて訳すと何とも奇妙な日本語になるのですが、原文では同じemployという言葉だと意識して使っているのを、ある時は「雇用」、ある時は「使って」とか「利用して」とか訳すというのも抵抗があるようです。

とまあそんなわけで、この一般理論で「期待」と言う言葉は基本的にexpectationという言葉ですから、「こうなると良いな」「こうなってもらいたいな」という意味ではなく、「こうなるかもしれないな」「こうならないと良いな」「こうなると困るな」という意味も含んだ言葉だと理解する必要がありそうです。

ですから「資本の限界効率」というのも、「投資の利回りの見込み、見通し、見積り」くらいの訳が一番正確なのかなと思います。

ここでケインズがすごいのは「供給価格というのは市場価格とは違うよ」といって、きちんと定義している所です。

ケインズの定義は、それを購入した時、製造業者が一個売れたんだからその分もう一個作ろうと思うような価格だということです。これは製造業者が「一個売れたんだからこれは儲かりそうだから、もっとたくさん作ろう」と考えたとすると、その値段は高過ぎるということだし、「たまたま売れ残りがあったからこの値段で売ったけど、もうこれ以上この値段で売るんじゃ儲からないから新規に作るのはやめておこう」と考えたとすると、その値段は「安過ぎる」ということになります。

そのどちらでもない、「高過ぎも安過ぎもしない値段で買ったとした時の利回りの見込みのことを資本の限界効率と言う」と、ケインズは定義しています。ここまでちゃんと考えるというのは大したもんだと感心します。

このexpectationですが、誰が期待するのか見積もるのかということですが、ケインズは明確に消費者や企業や投資家、すなわち実際に消費したり投資したりする人々がそれぞれ自分勝手に期待し見積もるのがexpectationだと言っています。誰か頭の良い人が皆の代わりに考えるのじゃなく、皆がそれぞれ自分勝手に希望や悲観を交えながら見込むてんでんばらばらのその全体のことを、この本では「期待」という言葉で表しています。

ケインズ 8回目

4月 9th, 2013

さてこの第3編のタイトルとなっているこの『消費性向』という言葉ですが、ケインズが使っているのは普通のこの言葉の意味とはちょっと違います。『消費性向』という言葉をネットで調べたりすると『可処分所得のうちどれ位の割合が消費に回るかという率』くらいの意味が出てきます。ケインズが言っているのは『所得と消費は関係している。どっちかが変化すればもう一方も変化する。その関係あるいは関数を、消費性向と言う』ということです。

で比率の方はというと、『限界消費性向』と言う言葉と『平均消費性向』という言葉と二つ追加的に用意して、これは比率です。所得がちょっと増減した時に消費もちょっと増減する。その両方の増減の比を限界消費性向といい、全体の所得に対する全体の消費の割合を平均消費性向と言います。

ただしケインズの所得というのは企業の利益と消費者の所得の合計のことですから、注意して読む必要があります。「普通、所得が増えれば消費も増える。だけど所得が増えた分まるまる消費が増えるのじゃなく、その一部でしかない。」というのがケインズの言っていることです。

ここで所得というのが消費者の所得のことであれば何となくそんな気もしますが、ケインズ流に所得というのは『企業の利益と消費者の所得の合計だ』となると、ほんとにそうかな?と思ってしまいます。

企業はちょっと儲かったけれど将来の見通しがまだはっきりしないので賃上げには応じないし、雇用も増やさない。消費者の所得は変わらないけれど、企業はちょっと利益が増えた。そんな時、その合計の全体の所得が増えたからといって消費者が消費を増やすだろうか、というのはごく自然な疑問です。

このようなことは我々がバブルがはじけた後の日本の状況を知っているから言えることで、ケインズが考えていたのは多分、全体の所得が増える時は企業の利益も労働者の所得も両方増える(もちろん増える比率は違っていたとしても)。全体が減る時はそれぞれも減る、という普通の状況を前提としていた、と考えれば納得できます。

で、この限界消費性向を使って『消費あるいは投資を増やした時、所得も増える』という話をします。その付録として『投資の増え分に対して所得の増え分が何倍になるか』という、いわゆる『乗数』というものを持ってきます。

この乗数については、Aさんの所得が増えるとそれが消費にまわってBさんの所得が増える。するとその一部が消費に回ってCさんの所得が増える・・・と、『風が吹けば桶屋が儲かる』式に次々と芋づる式に少しずつ利益が増え、その全体を合計すると乗数倍になる、なんて具合の説明があります。

話としては面白いのですが、ケインズの乗数はこんな話ではありません。このぐるぐる回りの説明はサミュエルソンの経済学の中で使われていて、そのため皆がこれをケインズの乗数の理論だと思いこんでしまったようですが、実はケインズが一般理論を書いたすぐ後にもこのぐるぐる回りの説明をした人がいました。

『一般理論』の中ではケインズは明確に『これとは違う』と書いているにもかかわらず、このぐるぐる回りの説明をした友人に対して『確かにそれが私の乗数と同じです』というようなことをケインズ自身言ってしまっているようです。それでその人は自信を持って『これがケインズの言っていることだ』と説明し、その後サムエルソンの経済学が大ベストセラーになってネコも杓子も知っている話になっているようです。

どうもケインズというのはこういう所ちょっといい加減な人のようで、それも『一般理論は難解だ』ということになっている一因のようです。

ケインズの乗数はこんなに回りくどいぐるぐる回りの話ではなく、単純明確です。
所得を(Y)・消費を(C)・投資を(I)と書くと
  Y=C+I
という式はいつでもどこでも常に瞬間的に成立ちます。
そこで△Y・△C・△Iをその増分とすれば
  △Y=△C+△I
もいつでもすぐに成立ちます。そこでその比をとって
  △C/△Y
を限界消費性向と言う、ということになっています。

このような重要なものは、物理や化学だったらすぐにでも共通の記号を誰かが決めるんですが、経済学では『限界消費性向』という言葉は共通に使うのに、それをあらわす記号が決まっていないようです。で、仕方なくこれをαとします。
  △C/△Y=α ですから、
  △C=α・△Y
  △I=△Y-△C=△Y-α・△Y=(1-α)・△Y
  △Y=[1/(1-α)]・△I
ですから、K=1/(1-α)とすると
  △Y=K・△I
すなわち、投資が△I増えると所得はそのK倍増える。
そのK を乗数と言う。

これがケインズの乗数(投資乗数)です。
  K=1/(1-α)ですから、逆に解けば
  α=1-1/K
となります。αでもKでも一方が決まればもう一方も自動的に決まります。
ケインズは数学が得意な人ですから、1/(1-α)倍と言えば良いのにわざわざK倍と言いたいなんてことは考えません。一応乗数という言葉を使った友人の顔を立ててこの言葉は使ったけれど、大事なのは限界消費性向の方で、乗数に言い換えることにはあまり関心がなかったように思えます。

さて、この限界消費性向のα=△C/△Y、あるいは△C=α・△Yですが、このままでは単なる割算で何の意味もありません。ケインズが言いたいのは△Yや△C、△Iが小さい時(すなわちあんまり大きな変化がないうち)はこのαがあまり変化しないということです。

単なる割算なら、α=△C/△Y、△C=(△C /△Y)・△Y というだけで何の面白いこともないのですが、αがあまり変化がないということであれば、そのあまり変化がない間についてはαが一定だと考えても良いことになります。

そうすると、
  △C=α・△Y
  △I=(1-α)・△Y
ということになります。

すなわち、皆がちょっと節約して貯金しようとして消費を△Cだけ減らすと、社会全体の所得が(1/α)・△Cだけ減ってしまう。貯蓄は(1-α)/α・△Cだけ減ってしまう。すなわち貯金しようとして消費を減らすと貯蓄も減っちゃうよというお話になります。

逆にいえば、消費や投資を増やすとそれ以上に所得を増やすことができる、ということです。
αはふつう、0と1の間の数で、1の方に近い数だ、という経験から、(1-α)は0に近い数になり、1/(1-α)は大きな数になります。すなわち、ちょっと投資を増やすとその何倍も所得が増えるよ、ということです。

この投資を増やす手段として、ケインズはいろんな例を挙げています。
ピラミッドの建設、地震、戦争を挙げた後、よく知られている紙幣を瓶に詰めて廃坑に埋め、その穴を地表まで埋めた後で採掘権を入札に掛ける、というアイデアを出します。
そして最後に、『古代エジプトは貴金属の探索とピラミッドの建設という二つの活動を持った点で二重に幸運だった。』『それが消費されることによって人間の用に供するというものではなかったため、潤沢のあまり価値を減じることがなかったからである。』『中世には大聖堂が建立され、ミサ曲がうたわれた。』『二つのピラミッド、死者のための二つのミサ曲は、一つのピラミッド、一つのミサ曲に比べれば良きこと二倍であるがロンドン-ヨーク間の二本の鉄道についてはそうはいかない』『子孫のために彼らの住む家を建てよう、そのためには彼らに余分の「財政」負担をしてもらわなければならない、そう決断すればいいものを、その前にあれこれ余計なことを考えてしまう。だから我々は失業という苦境から簡単には抜け出すことができないのである。』など、味わい深い文章がたくさんあります。
『ありがたいものだけれど何の役にも立たないもので、作るのに大金がかかって使いべりしないもの』というのは今だったらどんなものだろう、と考えてしまいます。

R

4月 8th, 2013

友人に『R』について質問されて解答したのですが、そういえば『R』に関してブログに書こうと思っていて、そのままになっていたことを思い出しました。

『R』というのは統計処理のためのフリーソフトで、高度な統計処理が簡単にできるということで、ある種デファクトスタンダードになっているようなソフトウェアです。

で、これは統計処理ソフトと呼ばれることが多く、統計処理のための強力なルールが用意されているのは確かなんですが、実はこれだけじゃない、強力な機能を併せ持つソフトウェアです。

プログラム言語なんていわれることもあり確かにプログラムを組んだりもするんですが、これ自体はプログラム言語というよりは計算環境と言った方が良いものです。計算式を書いてその結果を確認し、また次の計算式を書いたり、前の計算式の一部を書き換えて計算させたりということが自由にできる、データのメモリーも計算式のメモリーもたっぷり持った、関数電卓みたいなものです。

で、統計処理のツールについては販売されているソフトにもひけを取らないくらいの機能を持っているので、統計処理ツールとなっているんですが、それだけじゃありません。

まずこれはベクトル計算機だという性格があります。通常の計算機やプログラムでは一つ一つの数が単位で、一つ一つの数を定数や変数にしていろいろ計算するのですが、『R』はその計算の単位が数列です(『R』ではこれをベクトルとよんでいます)。

ですから数列から数列を計算する、というのが計算式になります。

生命保険の保険数学では死亡率にしても生存数・死亡数、あるいは計算基数とよばれているもの、たいてい年齢別の数値で年齢別に並べてやると数列になります。ですから死亡率という数列から生存数・死亡数という数列を計算したり、それから計算基数という数列を計算したりするのが簡単にできます。通常は年齢に関してforループを使って計算するとか、Excelなんかだったら1つのセルに計算式を入れて、それを年齢分コピーして計算する、なんてのが一つの計算式で書けてしまいます。

もう一つの強力な機能がグラフ機能です。高度なグラフが自由に描け、そのグラフをファイル出力してExcel・Word・PowerPoint等に自由に貼り付けることができます。

Excelなどでグラフを描くといろんなパラメータをいじくるところがかなり面倒くさく、しかも後からどんなパラメータをどのようにセットしたか調べるのもやっかいです。『R』だといろんなパラメータは式の形でセットするので、その式のテキストを見れば何がどのように設定されているかすぐわかるし、一部を変更してグラフを描き直すというのも簡単にできます。

<R>で検索すればいくらでも紹介用のサイトがみつかるし、インストールも簡単にできます。興味があったら、いじってみてはいかがでしょう。

ケインズ 7回目

4月 4th, 2013

さて
  所得=消費+投資
  貯蓄=所得-消費
  貯蓄=投資
という形で式の数は3つ。変数の数は4つですから、これだけでは一般に式を解くことはできません。さらに3番目の式は1番目の式と2番目の式から導くことができるので、実質的に式の数は2つ、変数の数は4つで、数学的に言うと自由度が2となります。

これだけでは式を解くことはできないのですが、しかし、所得・消費・投資・貯蓄が勝手に動くわけには行かず、常にこれらの式を満たしていなければならないという制約下にあるということです。

この関係式を道具として、ケインズはいよいよ経済活動の実態に切り込んでいくことになります。

ケインズにとって経済活動の目的は「消費」ですから、どうすれば消費を伸ばすことができるか、というのが当面の課題です。

ケインズがこの本を書いたのは、アメリカの大恐慌の後、世界中に失業者が満ち溢れていた時代です。山ほど失業者がいる時に「消費を増やそう」と言っても、そのためには労働者の所得が増えなければどうにもなりません。そこでケインズは消費を増やすために、まずは「所得を増やすこと」、そのために「雇用を増やすこと」に目標を変更します。

ケインズによると古典派の経済学では失業(非自発的失業すなわち働きたくても仕事がないということ)はあり得ず、失業者は皆給料が低いのを我慢すれば仕事が手に入るのに、もっと高い給料を要求して失業しているということになるようですが、その当時現実にどんなに給料が低くても良いからと言っても仕事にありつけない失業者が山のようにいたわけで、そこでどうして失業が生じるのか、失業を減らす雇用を増やすためには何をどうすればいいのかというのが、ケインズが古典派を裏切って一般理論を書いた理由ということのようです。

企業や消費者の経済活動のうち、自分で自由に意思決定できるのは消費と投資です。消費者は消費するかそれをあきらめる、あるいは先送りするか、自由に決めることができます。企業は投資するかしないか、自由に決めることができます。所得の方は、労働者は雇ってくれる企業がなければ所得を得ることができません。企業は製品・商品・サービスを買ってくれる企業や消費者がいないと所得を増やすことができません。

そこで企業や消費者が自分で意思決定できる投資や消費を増やしたり減らしたりしたら、その結果として所得はどうなるか、という分析が大きなテーマとなります。

ケインズはまず第3編「消費性向」という所で、消費(や投資)を増減させることによって所得がどう変化するか、検討します。続く第4編「投資誘引」という所で、今度は投資を増減させる原因は何か検討し、その中で金利(利子率)がどのような役割を果たしているか、金利(利子率)はどのように決まるのかを検討します。

北朝鮮

4月 4th, 2013

北朝鮮、またまた騒々しいですね。

今度はいよいよ中国にもそっぽを向かれてしまったようで、なおさらアメリカに自分の方を向いてもらおうと必死の様子です。

でも北朝鮮が誰かの注目を集められるのは軍事的な動きしかなく、その軍事的な動きで北朝鮮としてはオバマさんに声を掛けてもらいたいのに、今の所うまく行っていないようです。むしろ動いてもらいたくない米軍の方に動きが出てきてしまって、困っているようです。

軍隊というのは多少でも戦争になる可能性があるなら対抗する体制をとらなきゃならないので、米軍や韓国軍が対戦の準備をするのは当然の話なのですが、北朝鮮は本気で戦争しようとは思っていないでしょうから、これは困った状況ですね。

金正日の時代はこのあたり慎重にやって、アメリカの軍ではなく政治家の注目を引くことができましたが、金正恩はまだ若いからでしょうか、ストレートに米軍の注意を引いてしまったようです。

事態がここまでエスカレートすると、いつどこでひょっとして火がついてしまうかも知れません。でもそれはもしかするとアメリカにとっては嬉しい話なのかも知れません。

韓国は、仮に北朝鮮から攻撃を受けたら、ヨンピョン島の時にようにその攻撃元に対して反撃するだけじゃなく、今度はその攻撃を指示した場所も攻撃する、と言っています。そこが反撃したらさらにその上を攻撃するということになります。いずれにしても北朝鮮はそれほど長く戦争を続けることはできそうもありませんから、アメリカがその気になればアッという間に終わってしまうでしょう。

今オバマさんは予算のこととか債務上限のこととか、民主党と共和党のねじれでニッチもサッチもいかない状況です。さらに戦争が嫌いな「弱腰の大統領」と言われています。ここで北朝鮮で戦争が始まればアッという間にアメリカの勝利で終わり、盛り上がったアメリカ人の愛国心でこれらの問題は一気に解決してしまうでしょう。

ブッシュのアメリカがやったアフガニスタンやイラクの戦争は、戦争には勝ったもののその後始末で泥沼に入ったようなもので今だに苦労しているのですが、北朝鮮との戦争であれば、イスラムの過激派やテロリストが登場することはありません。後始末のためのお金は北朝鮮のすぐ近くに、使いきれないお金を持って使いみちを探している日本がありますから、いくらでもそこからお金を引き出すことができそうですし、そうなったら韓国も中国もロシアも負けじとばかりにお金を出すでしょう。ヨーロッパは北朝鮮からは遠いし、今ユーロ危機で大変ですから、わざわざ余計な口出しもしないでしょう。

このように考えると、アメリカにとっては北朝鮮がちょっときっかけを作ってくれるのが最も嬉しいでしょうね。真珠湾の時もそうですが、そういうふうに相手が先に手を出すように追い詰めるというのは、アメリカは得意です。いよいよ金正恩はニッチもサッチもいかないのかも知れません。

キプロスの銀行・・・続き

3月 26th, 2013

キプロスの銀行、いよいよ正念場ですね。

どうなるか気になって、昨日(3月25日)は1日ネットでニュースを見ていたのですが、日本のニュースのサイトでは細かい所がはっきりしないので、仕方なく久しぶりに英文で検索してしまいました。

やはりさすがにFinancial Timesの記事とロイター(英文)の記事がしっかり細かい所まで書いてあり、ようやく全体像がわかりました。

念のためにここにまとめておきます。

  1. キプロスにはいくつかの銀行があって、一番大きいのがキプロス銀行、二番目がキプロス国民銀行(別名ライキ銀行)と言い、とりあえずこの二つの銀行の預金者が問題となるようです(他の銀行も当面窓口が閉まっているので関係ないというわけではありませんが)。
  2. 二番目に大きいライキ銀行の預金のうち、10万ユーロ(1,000万円相当)より小さい額の預金は全額保護されるので、その預金はキプロス銀行に移される。
  3. ライキ銀行はすでにユーロシステムから90億ユーロの支援を受けているけれど、その支援はキプロス銀行に引継がれる。
  4. ライキ銀行の10万ユーロを超える額の預金はライキ銀行に残り、ライキ銀行は破綻処理される。その破たん処理で株主とライキ銀行の債券の持ち主は、株や債券がゼロになる。残った預金者は預金の額が1/3程度減額されることになる。
  5. キプロス銀行の方では預金の額が10万ユーロまでの預金については全額保護される。10万ユーロを超える預金については、預金の一部が強制的にキプロス銀行の株に転換させられることにより、負担を強制される。
  6. 当初18日以来、全ての銀行の窓口は閉ざされていて26日から開く予定だったけれど、それを最初は「キプロス銀行とライキ銀行だけは28日から開き、残りの銀行は26日から開く」と一旦発表したもののその後すぐ変更して、「全ての銀行が28日から開く」ということになった。すなわち27日まで全ての銀行が閉まったままということになる。

ということです。ライキ銀行というのはすでに殆ど国有化されているようなので、株主というのもキプロスの政府ということになるようです。またこのスキームで得られるEUからの100億ユーロの支援というのは「Loan」と書いてありますから「借金」で、いずれは返さなくてはならないお金のようです。

キプロスというのはEUに入り、金融立国で生きていこうとした国で、他にこれといって産業らしいものはないのですが、その金融がこんなことになってそんな借金が返せるとも思えないのですが、当面そのことについては誰も何も言わないということになっているんでしょうか。

以上が日曜の夕方から始まって月曜の朝まで続いた議論の結果ですが、驚いたのはこれで問題が解決したとばかりにヨーロッパやアメリカの株が上ったり、ユーロ高・円安になったことです。

こんなのは何の解決にもなっていないで、単に先週末キプロスの国会の否決でダメになった案の代替案ができたというだけで、実際それが機能するかどうかは銀行の窓口が開いてからの話だと思っていたのでびっくりしました。

さすがにその後マーケットの皆さんも思い直したようで、株が下がり、為替もユーロ安・円高になっています。この為替の乱高下、往復とも上手く乗れればかなりの儲けになったでしょうね。

さらにやっかいなことに、この解決策を決めたユーロ圏の財相会議の議長が「今後はこれが同様のケースのモデルとなる」と言ったようです。すなわち銀行が危なっかしくなった時、これまではその銀行のある国が何とか面倒を見る。そのために必要なお金をEUがその国に用立てるということだったのですが、今後は銀行の問題は預金者の負担で何とかするということです。何でこの時点でこんなことを言うんだろうと思いますが、もう言っちゃったことはどうにもなりません。キプロス以外の国々でも、危なっかしい国や危なっかしい銀行では預金の引き出しが始まるかも知れません。

いずれにしても28日に無事にキプロスの銀行が窓口を開けることができるかどうか、そこに殺到する預金者が満足できる額の預金を引き出すことができるか、その時取り付け騒ぎにならないか、まだまだ安心できるわけではありません。

こんな状況で3月末決算の会社は決算期末を迎えることになります。決算の担当者は大変ですね。

日銀総裁の交代

3月 22nd, 2013

日銀総裁が白川さんから黒田さんに交代しました。
マスコミなどでは白川さんはちゃんと仕事をしなかったけれど今度の黒田さんはしっかりやってくれそうで、デフレも終わるんじゃないかという期待感がありますが、私の感想とは大分違いますね。

白川さんというのは総裁になった時、他の候補者が国会の同意で揉めて想定外のピンチヒッターのような形で選ばれたのですが、それまで日銀の中では実務家というよりは学者のような仕事をしていた人なので総裁の仕事がちゃんとできるか心配されたのですが、実際総裁になってみたら素晴らしい仕事の仕方で安心感が持てました。

いつまでたっても景気が良くならなかったじゃないかという批判もありますが、景気を良くすることは日銀の仕事じゃないですし、景気を良くしなきゃいけない立場の政府のやったことが景気を良くするのに全く失敗した、というのが現実です。その中で、大きな事件が次々に起こる中で一つも銀行がおかしくならなかったんだから白川さんはちゃんと仕事をした、ということです。

今黒田さんが新しい総裁になってかなり期待が膨らんでいますが、日銀総裁がそう簡単に景気を良くしたり悪くしたりできるわけがありません。できるのはたまたま景気が良くなる時に、そこに日銀総裁として居合わせるかどうか、というだけのことです。

その意味では安倍さんも同様ですが、たまたま今「アベノミクス」ということで景気が良くなる場面に安倍さんも居合わせる巡り合わせになったし、黒田さんもそうだ、というだけのことです。

でもたまたたまそこに、その立場に居合わせるということ自体「運も実力のうち」という考え方からすると、その人の実力だということになりますから、その意味で安倍さんや黒田さんに期待するというのもアリなんでしょうね。

誰かスーパーマンのような人が現れていろんな問題をたちどころに解決してくれて景気を良くしてくれるという話の方が単純明快、わかりやすいし、そう考えた方が安心できますからマスコミもそう宣伝するし、それを見聞きする方もそれを受け入れたがるんでしょうね。

マスコミの人気に煽られて黒田さんがとんでもないことをやり過ぎないように、と思いますが、黒田さんというのも多分頭のいい人なのでたいしたことにはならないと思います。

キプロスの銀行

3月 22nd, 2013

キプロスの銀行預金者に対する課徴金、びっくりしましたね。

銀行が破綻しても1,000万円までは預金を保障するというのが日本を始めとした多くの国のやり方だと思うのですが、これとは逆に、銀行が破綻していないのに銀行の破綻を防ぐために預金者の預金から預金残高の6%なり9%を召し上げてしまうという話ですから、預金者にとってはとんでもない話です。

これを実施するには新しく法律を作る必要がありますが、とりあえずこの新しい法律の案はキプロスの国会で否決されたようですが、政府が提出した法案に対して賛成する議員が一人もいなかったというのも驚きですね(かなり多くの棄権と過半数の反対だったようです)。

問題はこのようなアイデアがEUのほうからキプロスに提案されたということで、これは同様のアイデアが他の国にも使われるかも知れないということになります。

スペインやイタリア、フランスの預金者はいつ頃どうやって銀行預金を引き出すか考え始めているに違いありません。でもそのような預金の流出は銀行の破綻を早めることになるわけで、危機を加速することになってしまうんですが。

キプロスの銀行預金はロシアの金持ちの預金が1/3とか2/3とかを占めるらしいですが、EUとしたらロシア人の金持ちに負担させるのは構わないと思っていたのかも知れませんが、普通の預金者のことは考えなかったのでしょうか。

100億ユーロの支援をしてあげるから58億ユーロの課徴金を確保しろというのもちょっと乱暴ですね。とはいえ一方的に助けるだけということだと、ドイツの国民に言い訳ができないと思ったのでしょうが。

キプロス銀行は今週のはじめから窓口を閉めていて、来週までは閉めっぱなしということですが、銀行が閉まりっぱなしというのもいつまでも続けるわけには行きませんから、この週末が山ですね。

このキプロス問題、うまく解決しないと火の手が他の危なっかしい国にそのまま飛び火してしまいますから、そうなったら大変です。どうなりますか。

『アジア独立と東京五輪』

3月 19th, 2013

私の友人の浦辺さんの4冊目の本、『アジア独立と東京五輪』を読みました。

1964年の東京オリンピックにインドネシアのスカルノ大統領が送った選手団が、政治的な理由によりオリンピックに参加することができずそのまま帰国したというエピソードを締めくくりに、それまでの日本とオランダ・インドネシアの3国の関係を解説しています。

2020年のオリンピック東京招致が今話題ですが、「オリンピックがいかに政治的な催しなのか」ということを考えるヒントになるかも知れません。

私も浦辺さんと一緒に昔オランダ資本のING生命で働いたことがあり、私にとってはオランダは昔から興味の対象の一つです。
そのオランダが植民地として支配していたインドネシアは、太平洋戦争が始まると日本が占領してオランダ人を排除し、日本が戦争に負けたあとオランダが再度植民地としようとした時、インドネシアの独立戦争に日本の兵士達が多数参加して活躍したとか、あるいは江戸時代の鎖国の日本が貿易を続けていた唯一の西洋の国オランダにとって、アジア貿易で大半の利益を稼いでいたのが対日貿易で、その拠点だったのが植民地インドネシアだった話とか、あるいは三浦按針や八重洲通りの名前の元となったヤン・ヨーステンを乗せたオランダの貿易船リーフデ号が日本に流れ着き、その乗組員が関が原の戦に参加した話とか、長崎の出島の話とか、面白い話がたくさん入っています。

歴史に興味がある方にはお勧めの一冊です。

南海トラフ巨大地震の被害想定

3月 19th, 2013

内閣府が発表した南海トラフ巨大地震の被害想定が話題ですね。

例によって日本のマスコミのサイトでは元資料のリンクがわからないので、ここに書いておきます。
http://bousai.go.jp/nankaitrough_info.html

しかしこの被害想定の
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今だかつてこれだけの規模の地震が起こったという記録や証拠はないけれど、
かといってあり得ないということもないので、
まずめったなことでは起きないとは思うけれど、
とりあえずこの想定で被害を見積もって対策を考えましょう
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というのは面白いですね。

この伝でいけば、今だかつてない巨大台風の対策とか、今だかつてない温暖化あるいは寒冷化の対策とか、あるいは巨大隕石の落下とか、いろんなことが考えられますね。

これで一気に投資ニーズ・消費ニーズが増えると、いよいよ景気回復も本決まり、でしょうか。