『粋な旋盤工』 小関智弘

3月 17th, 2017

またまた小関さんの本ですが、この本にまとめられているのは小関さんがNC旋盤の勉強を始める以前のもので、まだNC旋盤など何するものだ、というようなスタンスなんですが、むしろ著者が高校を卒業して旋盤工になり、見習いとしてこき使われながら社会正義のために頑張っている姿が書かれています。

高校生のうちから(朝鮮戦争の前のころのことです)社会正義に目覚めた文学少年として反戦・反米運動に参加して、ビラ配りのために町工場に潜り込み、そこで働く職工を見て、少年客気のあまり自分も職工になろうときめてこの世界に飛び込み、60年安保では職場の仲間と零細企業の未組織の労働者としてデモに参加したり、職場で労働組合を作って待遇改善の闘争をしたり、労使の合意がなされる条件として、職場の問題児の著者だけが職場をクビにされたり、そのような中、当初の自ら職工となって中から革命を起こそうという考えが非現実的な話だと理解するようになり、本物の職人となろうとするあたりを、自分自身と周りの様々な職工たちの姿を描くことで表現しています。

これまで私が読んだ、様々な職人の世界に関する話とは違い、むしろ著者本人に焦点を当てた、プロレタリア文学から職人のドキュメントに至る過程が非常に面白い本です。

お勧めします。

『鉄を削る-町工場の技術』小関 智弘

3月 12th, 2017

少し前に紹介した『機械加工の知識がやさしくわかる本』で参考図書として紹介されていた、小関智弘さんの『町工場巡礼の旅』と『町工場の磁界』を読み、あまりにも面白いので同じ著者の他の本を借りて読みました。

読んだのは、『春は鉄までが匂った』『ものつくりに生きる』『鉄を削る 町工場の技術』『町工場・スーパーなものづくり』という本です。まだ読めていないものも何冊もあります。

著者は高校を卒業して町工場で旋盤工になり、いくつもの工場を転々としながら旋盤工を続け、途中で従来からの旋盤だけでなく新しくできたNC制御の旋盤も使いこなすようになり、定年後も勤め先に頼まれて週に何回か工場に通って、旋盤・NC旋盤を使って鉄を削り続けていた人です。

その傍ら文筆活動をして何度も芥川賞・直木賞の候補となり、もうちょっとの所で受賞を逃した、ということです。

さらに各地の多数の町工場を訪ね、そのルポルタージュレポートを上にあげたいくつもの本にまとめています。

町工場のレポートといってもそれだけでは分量に不足する分を、自分の職人としての経験も話しています。

NC旋盤というのは、コンピュータ制御の旋盤でプログラムを組んで、それで自動運転させる旋盤ですが、多分今ではこんなやり方ではないと思いますが、小関さんが始めた頃はプログラムを紙テープに穿孔して、それを機械にかけて動かしていました。

で、『プログラムを組む』と言う所、小関さんは『紙テープを作る』と表現しています。

文学青年の旋盤工が四苦八苦しながら手探りで『紙テープ作り』に挑戦するくだりは、40年前私が手探りでコンピュータプログラミングを始めたころと良く似ていて、懐かしくなりました。

どの本を読んでも面白く、職人の世界の辛さと面白さを満喫させてくれます。

お勧めします。

『検察秘録 2.26事件(1~4)(匂坂資料5~8)』

3月 6th, 2017

先日友人とちょっとフェースブックでのやり取りで、2.26事件の事件関係の書籍について話をしました。その中で、この事件の軍法会議で検察官側のトップとして取り調べをリードした匂坂法務官が持っていた資料については、匂坂資料1巻~8巻として出版されていて、うち1巻~4巻が5.15事件関係、5巻~8巻が2.26事件だ、と書きながら、この資料についてはそういえばまだ見てなかったなと思い出しました。

この資料を元にして澤地久枝さんが書いた『雪は汚れていた』を読んで、この資料も何となく読んだようなつもりになっていたのですが、改めてその元資料を見てみようとして、図書館で借りてみました。

1頁がA5サイズ、見開きでA4サイズで1冊500~700頁位で、中心となる資料の部分は全部2段組みになっている、それが4冊もある、というとんでもない資料集ですから、これを読むのはかなりの覚悟が要ります。

ただしこの資料集を直接見てわかったのは、資料自体の他にいくつかの付録が付いていて、その分が面白そうだということです。
2.26事件.1では
 2.26事件と匂坂資料     澤地久枝
 父匂坂春平と資料について  匂坂哲郎
 付記                原秀男
2.26事件.2では
 戒厳と軍法会議         原秀男
 『電話傍受綴』について     中田整一
 補遺                 澤地久枝
2.26事件.3では
 父と2.26事件           匂坂哲郎
 軍法会議の検察と予審     原秀男
 補遺                澤地久枝
2.26事件.4では
 全集最終巻に際して       原秀男
 父と相沢事件           匂坂哲郎
 補遺ならびに解題        澤地久枝
 血盟団、5.15事件 2.26事件 関係文献目録    須崎慎一
というものが付いています。

澤地久枝さんというのは、この資料を分析し『雪は汚れていた』という本を書いた人です。匂坂哲郎さんというのはこの資料を残した匂坂春平法務官の息子で、この資料の公表を決めた人です。
原秀男さんというのは、昭和15年頃司法試験に合格し陸軍法務官になった人で、戦後弁護士をしながら2.26事件の軍法会議資料の発見に努め、また陸軍法務官だった経歴を活かして資料の読み方について澤地さんにアドバイスしたり、あるいはその後発見された軍法会議の資料を元に『2.26事件事件 軍法会議』という本を書いている人です。

私は2.26事件では、事件発生時東京警備司令官であり、その後戒厳司令官になった香椎浩平中将と、この事件で総理大臣になる予定だった真崎甚三郎大将の行動に関心があり、いわゆる青年将校達やこれに引きずられて事件に巻き込まれてしまった北一輝、西田税等についてはあまり興味がありません。

で、この中で匂坂さんが父親との思い出を語っているものの中に、匂坂春平法務官が真崎大将に殺されそうになったという話が入っていました。

相澤中佐が永田鉄山軍局長を殺害し、軍法会議にかけられることになったのですが、事件の後すぐのある日、匂坂法務官が陸軍大臣の秘書官からすぐ来てくれと言われて行ってみると、真崎大将が来ていて、陸軍大臣に会いたいと言ったのが大臣は不在で、では法務部長に会いたいと言ったのがそれも不在で、その代わりとして法務官のトップである匂坂さんが呼ばれたということで、真崎さんは相澤さんに対して、軍法会議をするな、という主張をした、ということです。で匂坂さんは丁寧に軍法会議の説明をし、それをやめることはできないと説明しようとしたら、問答無用、言う事を聞かなければタタキ切ってやるとばかりにいきなり軍刀を抜いて振りかぶった、という話です。外で様子をうかがっていた秘書官が真崎さんを止めに入って、匂坂さんは殺されずに済んだという話を、帰宅して息子の匂坂哲郎さんに話したということです。

相澤中佐による永田鉄山軍局長殺害事件で、2.26事件の後で相澤中佐は軍法会議で死刑になるのですが、その判決が決まるまで、他からの教唆については否定していました。刑の執行の直前になって暴れ出し、手がつけられなくなって匂坂法務官が面会に行きじっくり話を聞いた所、相澤中佐はようやく落ち着いて、永田鉄山を殺したのは自分の間違いだったと言って処刑されていったということですが、その際、実は永田鉄山殺害は真崎大将に言われてやったんだ、ということを初めて明らかにした、ということです。

相澤中佐が捕まって軍法会議の準備をしている時、真崎大将は相澤中佐がいつ自分に言われて永田鉄山を殺害したと言い出すか分からず、いてもたってもいられなくなって、軍法会議をやめさせようとして軍刀を抜いた、ということなのかなと思います。

2.26事件も、成功したら相澤中佐の裁判も終了して相澤中佐は無罪放免となり、真崎大将の殺人教唆も問題にならなくなります。

真崎大将としては2.26事件のクーデターを成功させて自分が総理大臣になるという野心もあったんでしょうが、むしろ相澤中佐の裁判をやめさせて自分の殺人教唆を表に出さないことの方が重大なことだったのかも知れません。

もしそうだったとしたら、一人の小心の大将の保身のために死刑になった青年将校や、それに巻き込まれてしまった人達は何とも情けない、可哀想な話ですね。

『公的年金の保険原理を考える』

3月 6th, 2017

日経新聞の『経済教室』のページに、しばらく前から『やさしい経済学』の連載として標記の『公的年金の保険原理を考える』というのが掲載されています。書いているのは、大妻女子大短大の教授の玉木さん、という人です。

この連載は年金問題を論じる、いわゆるコメンテーターや専門家などでも良く分かっていない基本的な所を非常に丁寧にやさしく説明してされているので、お勧めです。

しばらく前には同じ欄に慶応大学の権丈先生が『公的年金の誤解を解く』というタイトルで連載していました。この玉木先生は、この権丈先生の連載よりさらに基礎的な仕組みについて丁寧に説明しているので、権丈先生の連載を読むための準備運動として読むのも良いかも知れません。

公的年金の仕組みを理解するための標準的な資料として、教科書になると良いですね。

アカラクシアの解散

2月 22nd, 2017

私が仕事をしているアカラックス株式会社という会社は、『アカラクシア』という子会社を持っていました。保険の代理店をするのに、コンサルティングの会社とは別会社にしておいた方が良いだろうということで作った有限会社ですが、委託型募集人はダメという保険業界のルールの変更に伴い、保険の代理店は廃業し、しばらく休眠状態にしておりました。

いつまでも毎年住民税の均等割7万円を払っていても仕方がないのでこの会社を整理することにしたんですが、単純に『解散・清算』するというやり方と、親会社のアカラックスに『吸収合併』されて消滅するというやり方とがあります。色々検討して『吸収合併』の方を選択し、何度か法務局や税務署・税務事務所に相談に行って、この1月1日に正式に消滅しました。

それを受けて吸収合併と消滅の法人の登記を行ない、登記のできるのを待って、消滅会社の税務申告を済ませました。法人税・事業税等はなし。住民税は均等割の7万円の半分の3万5千円を申告と同時に納付して終りなのですが、預金の利子に対する源泉所得税の還付だけが残ってしまいました。たった3円なので別に還付して貰わなくても良いようなものなんですが、変則的な取扱いもかえって面倒だろうと、法人税の申告書には還付してもらうように書いて提出しました。

で、今日その還付について『還付しました』という葉書が税務署から送られてきて、これにてアカラクシアとしての手続きは無事終了です。

あとは親会社のアカラックスの年次決算の法人税等の確定申告で、今回の吸収合併に伴う合併差損等の処理をきちんと済ませば良いだけになりました。

登記のための色々な書類を用意したり官報に公告を出したり、いろいろ手続きがありましたが約半年弱で何とか無事終了。

なかなか面白い経験ができました。

『確率・統計入門』 小針 晛宏

2月 9th, 2017

ちょっと毛色を変えて、数学の教科書を紹介します。

アクチュアリーという仕事は時として確率・統計の計算が必要になるため、資格試験の科目にこの確率・統計が含まれています。私も大昔にこの試験に合格はしているんですが、今イチちゃんと理解している、という気持ちになれないので時々教科書を眺めたりしているんですが、この本もその一つで、かなり以前に買ったものを思いついて引っ張り出してきて読んでみました。

1973年に第1刷が出版され、私が買ったのは2000年の第30刷です。第30刷までいっているということで、それなりに売れている本なんだろうと思います(今でも新本として売っているようです)。

この本は著者の小針さんが若くして亡くなった後、友人の数学者たちが著者の原稿を整理して出版したもののようで、友人代表のような形で広中平祐さんが「序にかえて」という一文を載せています。数学が苦手だ、数学は嫌いだ、という人も、この広中さんの文章を読むだけでも十分価値があると思います。

この本は非常にうまく工夫されていて、確率・統計の本質的な所を説明しています。

確率ではよく、いろんな出来事の全体を確率計算の対象とし、その個々のケースの起こる確率を『同じ』とする、ということが良くあるんですが、この『同じ』というのを、もっと厳密にどう『同じ』とするのかによって、様々な確率モデルができる、という説明から始まります。この『同じ』が要注意だ、ということは、本の後半の部分にも時々登場します。

『確率の基本的概念』、『いろいろな分布』、『多変数の分布』という章がそのあとに続き、『正規分布』の章ではスターリングの公式を証明し、またフーリエ変換の所ではごく簡単にですが超関数についても触れています。このあたり数学者らしい生真面目さで、証明は省略しても議論はきちんとしています。
次に『乱歩』という章で、ランダムウォークについてかなり丁寧に説明しています。

最後の『標本の抽出』と『推定・検定』という2つの章では、統計の推定・検定というのは何をやっているのか、すなわち母集団の中から標本を抽出して、その抽出した標本の全体を一つの確率空間と考えて確率モデルを作り、そのモデルの分布を計算することにより推定や検定をするんだ、ということが二つの章に分けることにより明確に示されています。

この統計の部分ではX2(カイ二乗)分布とか、F-分布、t-分布などというものが出てきて、その計算をするためにかなり面倒くさい積分計算をしたりするのですが、その部分について
『ともかく説明できることを次々と証明してゆこう。その味気なさに耐え難い諸君は‘信じる者は救われる。’‘ホレ信じなさい。’ということで軽く読み流して行けばよいだろう。』
などと書いてあります。今の所私もこの『軽く読み流し』組です。

著者がすでに亡くなっているため、改訂もできないということか、いくつか誤植があったり、多分著者の勘違いのためか間違った記述もあったりしますが、それにも関わらず非常に魅力的で面白い本です。

各章に練習問題が付いていて、その練習問題の答えも丁寧です。本文の方の命題の証明なども丁寧で、いかにも著者が数学を楽しんでいることが伺われます。

とりあえずざっと本文を読み終え、これから各章の練習問題や『軽く読み流し』た積分の計算の所を読もうと思いますが、必ずしも全部読まなくても楽しい本です。

数学が好きな人、あるいは統計に興味がある人、確率・統計をもう一度勉強してみようと思っている人にはお勧めします。

広中さんの『序にかえて』は、数学が嫌いな人にもお勧めします。

『ドイツの歴史を知るための50章』 森井 裕一編

2月 8th, 2017

明石書店から出版されている『エリア・スタディーズ』というシリーズの中の1冊で、これが151冊目ということです。

ヨーロッパはイギリスやフランスはそれぞれ国としての塊がしっかりしているので分かりやすいのですが、ドイツというのはまとまりがなく、なかなか分かりにくい国です。この本で、全体としてのドイツがようやく一つのまとまりとして理解できたように思います。

何しろドイツという国が正式にできたのは明治維新よりすこし後のことですから、それだけでもわけが分からなくても不思議じゃありません。

始めはカエサルのガリア戦役でライン川の南側・西側をガリア、北側・東側をゲルマンとして、ガリアをローマ帝国に組み込み、ゲルマンの方をローマ帝国の外側と規定して以来、ゲルマン民族の大移動を経て、カール大帝のフランク帝国ができ、それが三分され、そのうち中部フランクと東フランクの部分を合わせてローマ帝国(その後『神聖ローマ帝国』となり最終的に『ドイツ国民の神聖ローマ帝国』とよばれるようになったようです)となった国がその元となるのですが、どうしてドイツがローマ帝国になるのか、あるいはどうしてローマ帝国がドイツになるのか、というあたりも説明してあります。

イギリスやフランスであれば、イギリスやフランスという国があり、イギリス人・フランス人がいて英語・フランス語という言語があるということなのですが、ドイツの場合、神聖ローマ帝国と、それを構成する何百かの領地(王国とか侯国とか)や都市(自由都市とか司教座とか)はあるものの、1871年に普仏戦争でプロシアがフランスに勝利し、攻めていったフランスのパリ郊外のベルサイユ宮殿でドイツ帝国の成立を宣言するまで、ドイツという国はなかったということです。ドイツ語もドイツ国民の言葉、あるいはドイツ人の言葉というよりむしろドイツ語を話す人をドイツ人と言おう、ドイツ語を話す人の国をドイツと言おう、というくらいの位置付けです。

フランス革命とナポレオン戦争により国民国家というイデオロギーが生まれ、その影響、ドイツでは、ドイツ語を作ろう、ドイツ人を作ろう、ドイツという国を作ろうという活動が一気に進展し、その結果できたのがドイツ語でありドイツ人であり、ドイツという国になるんですが、このような経緯から、それらの範囲はうまく重なり合わないままです。

そのため、たとえばドイツ人の住む国をドイツという国にしようとすれば、とてつもない拡張政策となり、ヒトラーのやったように近隣の国々を次々に飲み込んでいく勢いになります。ドイツという国をドイツ人の住む国にしようとすれば、これまたヒトラーがやったようにドイツ人以外の民族を追放する、あるいは殺害して民族浄化をはかるというとんでもないことになるわけです。

この本はそのようにしてできた、ドイツ帝国から産業革命によりイギリスを上回る工業国となったドイツが第一次大戦で敗れ、その後復興してヒトラーのドイツとなり、世界征服を目指したものの第二次大戦でまたまた敗れ、その後東西に分割されたものが再び統一され、EUの中核として重きをなしている現在の姿まで、丁寧に説明しています。

去年の秋に出版されたものなので、ごく直近の出来事までカバーしています。ドイツという国の古代から現代にいたる全体像が良くわかります。

ドイツという国はヨーロッパの中で一体どのような国なのか、ドイツの外にいるドイツ人をどうするのか、ドイツの外にいるドイツ語を話す人々をどのように捉えたら良いか、という問題意識、逆にドイツはEUの中でも移民・難民を受け入れている国ですが、このドイツの中のドイツ人でない人、ドイツ語を話さない人をどのように扱うか、という問題も抱えている国です。

英国のEU離脱の意思表明、他のEU加盟国でのEU離脱を主張する政党の躍進という状況下、今後のEUの行方を考える上で重要な本だと思います。

お勧めします。

ケインズ 『一般理論』の最後の部分

2月 8th, 2017

一般理論の感想文、途中で止まってしまっていますが、トランプ大統領の登場で思い出した部分があるので、コメントします。

それは、一般理論の最後の24章『一般理論の誘う社会哲学-結語的覚書』の最後の、第5節の部分です。これは時折引用されることがあるので、覚えている人も多いかも知れません。

『思想というものは、もしそれが正しいとしたら-自分の書くものが正しいと思わない著者がどこにいよう-時代を超えた力を持つ、間違いなく持つ、と私は予言する。』

『経済学者や政治哲学者の思想は、それらが正しい場合も誤っている場合も、通常考えられている以上に強力である。』

『誰の知的影響も受けていないと信じている実務家でさえ、誰かしら過去の経済学者の奴隷であるのが通例である。虚空の声を聴く権力の座の狂人も、数年前のある学者先生から(自分に見合った)狂気を抽き出している。』

『たとえば、経済学と政治哲学の分野に限って言えば、25ないし30歳を超えた人で、新しい理論の影響を受ける人は、それほどいない。だから役人や政治家、あるいは扇動家でさえも、彼らが眼前の出来事に適用する思想はおそらく最新のものではないだろう。』

『早晩、良くも悪くも危険になるのは、既得権益ではなく思想である。』

これらの言葉、トランプ政権の今後4年間、あるいはトランプさんが大統領になった後のアメリカと世界を考える時、じっくり味わいたい言葉だと思います。

トランプさんの信じている経済学、政治哲学がいったい誰の、どのようなものなのでしょう。ノーベル経済学賞の受賞者を輩出しているアメリカの経済学界は、トランプさんをうまく説得できるでしょうか。

千代田区長選の電話アンケート

2月 2nd, 2017

先週の日曜、会社に電話がありました。
日曜なのになんだろう、と思って電話を取ると、千代田区長選の電話アンケートでした。

私は東京都民でもないので、この選挙の有権者でないため、本来的にアンケートに答えずに電話を切るべきだったんでしょうが、たまたま暇だったので、適当に電話のボタンを押して答えてしまいました。
千代田区は住民がかなり少ないため、無作為的に電話を掛けてうまく千代田区民の個人の固定電話に掛かる、というのはなかなか大変な話で、予定の回答数をこなすのは大変なんだろうな、と思います。
1時間ほどたったところでまた同じアンケートの電話がありましたが、最初のアンケートには答えて2番目のアンケートには答えない、というのも失礼な話なので、またまた適当に電話のボタンを押して答えてしまいました。

回答の内容はホントにいい加減なものなので、選挙情勢の分析には何の影響も与えることはないと思いますが、それでもこの2回分の回答はコンピュータで集計されて報告されることになるんだろうな、と思い、不思議な気がしました。

a global Britain

1月 19th, 2017

イギリスのメイ首相のEU離脱に関するスピーチが話題になっていますが、そのスピーチの映像のバックの壁紙にこの言葉が書かれています。

最初は『Great Britain』と書いてあるのかと思っていたのですが、よく見ると『a global Britain』と書いてあるようです。

ここで、冠詞が定冠詞の『the』出なく、不定冠詞の『a』となっている、というのは、『これっきゃない』ということではなく、『いろいろあるうちの、一つの』という程度の意味です。
さらに『a』は英語では定冠詞ですが、すぐ隣のフランスではアクセントがついて『à』となって、前置詞になります。その意味は『…の方へ、…に向かって、』というくらいの意味です。 すなわち、イギリスは狭いEUの枠から出て、世界のイギリスになるぞ、というくらいの意味です。

なかなかカッコいいキャッチフレーズだと思うのですが、マスコミであまり取り上げられていないようなので、ちょっとコメントしました。