出しゃばりのアメリカと引籠りのアメリカ

11月 10th, 2016

アメリカという国は二つの顔を持っています。
『出しゃばりのアメリカ』というのは、世界の警察官という名前で世界中のあらゆる事に介入して、アメリカ流の正義を実現しようとします。

『引き籠りのアメリカ』というのは、アメリカが自分の固有のテリトリー(自分ち)だと考える南北アメリカ大陸の範囲に引き籠り、その外の事についてはアメリカの利害に関係がなければ知らん顔を決め込むというものです。

アメリカという国は、この二つの顔が交互に出てきます。

第一次大戦が始まった時は、まだ引き籠りのアメリカだったのでなかなか参戦しなかったのですが、途中から出しゃばりのアメリカになり参戦したので、かろうじてイギリス・フランスはドイツに勝つことができました。

その後第一次大戦が終わり、終戦処理をして国際連盟を作るあたりまでは出しゃばりのアメリカが主導してすべてを仕切ったのですが、国際連盟がスタートする時にはもう引き籠りのアメリカに変わっていたため、国際連盟はアメリカ抜きでやらなければならないことになりました。

その後ドイツも日本も国際連盟を抜けて国際連盟が機能しなくなり、1939年にはヨーロッパで第二次大戦が始まりました。それでもアメリカはまだ引き籠りのままでしたから、フランスはドイツに占領され、イギリスも風前の灯でした。その引き籠りのアメリカを出しゃばりのアメリカに変えたきっかけが1941年の日本軍による真珠湾攻撃です。

以来、アメリカは出しゃばりのアメリカをずっと続けていますので、第一次大戦・第二次大戦でひどい目にあったヨーロッパや日本は、アメリカがまた引き籠りになってしまわないように最大限の努力をしてきたわけです。しかしそれももう75年も続けていることになります。引き籠りのアメリカを実際に経験している人は今では殆ど生き残っていないということです。

今回トランプさんがアメリカの次期大統領に選ばれることになったのですが、選挙運動中の発言を見ていると、トランプさんはいよいよ引き籠りのアメリカを再現しようとしているようです。これはアメリカ以外の国々にとってははた迷惑以外の何物でもありません。とはいえ、独立した国と国の間で無理やり引き籠りを引っ張り出す有効な手段はないので皆困っています。昨日トランプさんの勝利で世界中が大混乱になっているというのもそういうことです。

日本でも戦後1945年以来71年にわたってアメリカ軍が駐留し、日本を防御してくれていたため、反戦平和主義の人たちが日本国内でいくら反米を叫んでもその体制はビクともせず、安心していられた訳ですが、それがトランプさんが大統領になりアメリカが引き籠りになったら、まるで違った世界になる、ということです。

いずれにしても70年以上慣れ親しんだ世界が変わるかもしれない、ということです。今まで当り前だと思っていた世界を、今まで当たり前だと思っていたことを当たり前ではないかもしれない、と一度見直してみたら面白いかも知れません。

第9条と修正第2条

10月 24th, 2016

アメリカの大統領選もあと残すところ2週間、先週は3回目のテレビ討論会がありました。

そのしょっぱな、司会者がトランプ・クリントンの両候補に投げた質問が、銃規制の話でした。

それに対して、トランプもクリントンも合衆国憲法修正第2条を引き合いに出しながら意見を言っていました。

アメリカ合衆国というのは、それぞれ独立した国(States)がまとまって連邦国家(United States)を作るということでできた国ですから、その元々の憲法の規定は、その連邦国家の組織をどう作り、運営していくかということしか書いてありません。

そこで憲法ができた後、その修正を『修正条項』という形で様々な規定を盛り込み、基本的人権もそのようにして盛り込まれたものです。
その基本的人権の修正第2条として、銃の保持の自由が定められているわけです。修正第一条は、信仰の自由・言論の自由・集会の自由・請願の自由という一般的な人権の規定ですから、具体的な人権としてはこの銃の保持が最初のものです。

すなわち各個人が自由に銃を持ち自分および家族を守る、というのが基本的人権の一番目ということです。

そのためこの憲法修正第2条というのは『神聖にして犯すべからず』というもののようで、トランプさんの方はこの修正第2条は神聖にして犯すべからずなんだから銃規制などもってのほか、という議論ですし、クリントンさんの方は神聖にして犯すべからずとは言ってもそのためにアメリカ人が毎年何万人も死んでいる以上、多少の法規制は憲法違反ではない、という主張です。

この議論を聞いて、日本国憲法第9条の議論に良く似てるなと感じました。

この日本国憲法第9条の戦争放棄の規定も『神聖にして犯すべからず』の規定で、護憲派はこの条文をちょっとでも変更することは許されないと主張し、他方改憲派は『神聖にして犯すべからず』とは言え現実的に修正することは問題ない、と主張しているわけです。

それにしても日本とアメリカで、アメリカは銃を持つことによって社会の安定・国の安全が保たれると考え、日本では軍隊を持たないことによって国の安全が守られると考えていて、その二つの国が最も親密な軍事同盟を結んでいる、というのも面白い話ですね。

日本では各個人が自由に銃を持つなんてことはありませんし、それが基本的人権に反しているなんて考える人はまずいません。歴史的には豊臣秀吉の刀狩りによって武士以外から刀を取り上げ、明治政府の廃刀令で武士からも刀を取り上げ、軍人と警察官だけが刀を持つことができたのが、第二次大戦が終わり軍人がいなくなって、軍人からも刀を取り上げたということなんですが、西部劇の時代から『ライフルで家族を守るのが男の役目』というアメリカの文化とは改めてすごく違うものですね。

Excelのべき乗計算

10月 24th, 2016

Excelではべき乗を^を使って、例えばAの2乗はA^2と書きます。

そこでAの2乗からBの2乗を引く計算は、
 A^2-B^2 とするのですが、諸般の都合により
 -B^2+A^2 と書いてしまいました。

すると驚いたことに、これは
 A^2-B^2 と同じ値にはならずに
 (-B)^2+A^2 と解釈されてしまうようです。

私も長年Excelを使っているのですが、これは初めて知りました。

これが分かるまでああでもないこうでもないと、かなり長い時間を費やしてしまいました。

そこで念のため記録として書いておきます。

『昭和史の原点』 中野雅夫

9月 1st, 2016

この『昭和史の原点』というタイトルで、
 1.幻の反乱・三月事件
 2.満州事変と十月事件
 3.五・一五事件 消された真実
という3冊が出ています(昭和40年代の後半に出ているので、今となってはなかなか見つけにくいかも知れません)。

この前紹介した『橋本大佐の手記』の著者が、その手記も参考にして、この手記と同じ、三月事件・満州事変・十月事件とその続きの五・一五事件について一体何が起こったのかを解説しています。

この前の『橋本大佐の手記』を読んで、この著者はどんな人なんだろうと思っていたのですが、この三部作にはそのあたりのことも書いてあり非常に面白く読めました。

何よりもこれらの本を興味深くしているのが、著者がこれらの事件の主人公であるいわゆる青年将校達とほぼ同じ世代に属し、ほぼ同じ時期に同様に維新あるいは革命を目指していたということで、この時代の空気というか気分を身を持って体験していて、それをもとにこれらの本を書いているということです。

たとえば五・一五事件の時、裁判が始めると国民全般からの助命嘆願が多数出され、犯人は多くの世間の支持を得たけれど、二・二六事件の時はそれほどの支持が得られなかった。それは五・一五事件の時は日本は経済的にも社会的にもニッチもサッチも行かなくなっていたのに対し、二・二六事件の時は既に満州国もでき、明るい希望が見え始めていたからだ、などというコメントは、同時代の人にしかできないコメントだなと思います。

著者によると、この当時の革命家の製造元は二つあって、一つは陸軍士官学校、もうひとつは師範学校だということです。士官学校では陸軍の軍人が軍の現場の指揮官になるために教育を受けるんだけれど、学校を出て現場に配属されると日本中から徴兵されてきた若者と出会うことになり、その若者達の家族の状況等、置かれている現実に直面せざるを得なくなり、日本を何とかしなければならないと感じて、革命あるいは昭和維新を考えるようになる。

師範学校では小学校の先生になるための教育を受けた人達が先生になって現場の小学校に赴任すると、そこには三度の食事も食べられない児童達が大勢いる現実に直面することになり、日本を何とかしなければと思って革命を目指すということのようです。

士官学校の方は軍人ですから『天皇中心の維新』という考えが主力となり、師範学校の方はそうでもないので、『共産党系の革命』という考え方も強くなるようです。

で、著者はその師範学校の方の人で、共産党の指導下に革命を目指し、五・一五事件の直後に(もちろん別の事件で)捕まって牢屋に入り、4年近く入っていて二・二六事件の直前に出獄したという人のようです。

その後新聞記者をやり、戦後は共産党の立ち上げを手伝ったりしていたようですが、戦後も5年くらい経つともう共産主義革命もほとんど非現実的なことがはっきりして、そこで改めて自分達と青年将校達が何を考えて維新・革命を目指し、それがどうして失敗したのか見直そうと思って、いわゆる昭和維新の調査研究をするようになったということのようです。

で、この三部作、事実にもとづくノンフィクションではありますが、著者自身が多数の関係者に直接取材して聞き取ったことがベースとなっており、それを事件の登場人物の話の形で再現してあるので、非常に生々しく面白く読めます。

何かを伝えるのに、たとえば
 ・誰それはそれを否定した
 ・誰それはそれを違うと言った
 ・誰それは『違います』と言った
という3通りの言い方がありますが、この3番目の言い方、これを直接話法と言いますが、このやり方だと『  』の中に感情を込めたり方言を使ったり、かなり表情豊かな表現ができます。

ノンフィクションの書き物ではありますが、このような所にいかにもその人がそう話していたであろう会話を盛り込むことにより生き生きとした文章にすることができます。
テレビでいえばドキュメンタリー番組をドキュメンタリードラマに仕立てるようなものです。

杉山茂丸という人はこの手法を『百魔』や『俗戦国策』で良く使っているのですが、この三部作の二冊目、十月革命に失敗して橋本欣五郎が自分の処罰は避けないけれど、仲間の千何百人かの青年将校達には累が及ばないようにするために杉山茂丸に頼み込み、杉山茂丸が京都にいる西園寺侯爵を電話でたたき起こしてその旨を頼み込む所など、この著者は『百魔』や『俗戦国策』を完全に消化しきったように、いかにも杉山茂丸が書く杉山茂丸の会話とそっくりな会話を書いていて、みごとなものです。ここの所の話は橋本大佐の手記にも書かれずに意図的に隠されていたのを、著者の調査により明らかにされたもののようです。
この杉山茂丸の電話の結果、その後と西園寺侯爵が昭和天皇と会って話をして、『10月事件は全てなかったことにする』ということになり、橋本大佐たちもほとんど処罰らしい処罰を受けることがなく事件が終わり、それが五・一五事件、二・二六事件につながっていった、ということのようです。

もうひとつ、五・一五事件とか二・二六事件とか、いわゆる昭和維新関係の話を書く人は、ともすると陸軍や青年将校達に思い入れを持ってしまう人が多いのですが、この著者はそのような思い入れは一切なく、むしろ陸軍に対しては批判的です。橋本大佐や青年将校達に対しては、同じく革命を目指した同類という意味での共感はありますが、どちらかと言えば民間人の方からこの昭和維新の運動に参加した人たちの方に思い入れがあるようです。

いずれにしても昭和初期、三月事件・満州事変・十月事件、井上日召の十人十殺の血盟団事件、五・一五事件と、二・二六事件につながる一連のいわゆる昭和維新の運動の全体像を把握するための絶好の読み物です。

お勧めします。

なおこの三部作の1冊目のカバー裏の著者紹介によると、この後二・二六事件についても新しい視点からの執筆を予定しているとのことですが、私が調べた限りではそのような本は見つかりません。そんな本がもし本当にあったら、是非にも読んでみたいと思います。

『橋本大佐の手記』 中野雅夫

8月 15th, 2016

この本はいわゆる昭和維新の、陸軍青年将校の集まり『桜会』の創立者(の一人)であり、昭和6年の三月事件・満州事変・十月事件に深く関わり、戦後東京裁判で終身刑となった橋下欣五郎の『昭和歴史の源泉』と題する手記に、著者の中野雅夫が注釈およびコメントを付けたものです。

この手記自体、橋本欣五郎が手書きのカーボンコピーで5部作製し、それが全て消滅した後、昭和36年になって元の手記の筆写コピーが見つかったと著者が発表したものです。

で、この筆写コピーの一冊しか残っていないのですが、内容からすると多分これは橋本欣五郎の書いたものに違いなさそうです。

この手記の中で橋本欣五郎は上記の三月事件・満州事変・十月事件について、その中心人物の一人として当事者以外には分からないことをいろいろ書いているのですが、だからと言ってそれが真実だ、ということではなく、『橋本欣五郎が思っていた限りの真実』だということになりそうです。

三月事件というのは、陸軍中枢部が東京に騒ぎを起こし、時の内閣を倒して陸軍の宇垣大将を首班とする内閣を作ろうとした事件で、実行の直前になって、騒ぎを起こさなくても内閣が倒れて自分の所に総理大臣が回ってきそうだと考えた宇垣が降りてしまったので、そのまま中止になった事件です。

陸軍の中枢部(陸軍次官・軍務局長・参謀次長・第二部長)という陸軍大臣と参謀本部長に次ぐ人達が事件を起こそうとした張本人の事件ですから、誰が誰を処罰するということもなく、すべては曖昧なまま終わってしまったようです。

次の満州事変については関東軍が事件を起こし、日本国内では陸軍省・参謀本部とも事件の拡大を止めるため次々に命令を出した時、参謀本部のロシア課にいた橋本欣五郎はその都度、その命令は建前上のもので本音は事件の拡大・満州の制圧だからどんどんやれという意味の暗号電報を送り事件を拡大した、という事件です。その後、満州は独立して満州帝国となり、昭和10年には満州帝国皇帝溥儀が来日しているのですが、その最大の功労者である橋本は、その功績が正当に評価されていない、と不満に思っていたようです。これが手記を書いた理由なのかもしれません。

次の十月事件は、当初国外で事を起こす前に国内の体制を整える方が先だと考えていたのに、満州事件の方が先になってしまったので、急遽国内体制を整備するために国内でクーダターを起こし、陸軍主導の政治体制を作ることを目的としたものですが、実行の数日前に計画が明るみに出て、橋下ら首謀者が旅館に軟禁され事件の実行に至らなかった、というものです。

この事件では2.26事件と同様に閣僚や政財界人を殺害し、警察や新聞社を襲撃し、クーデター内閣を作る計画で、そのために飛行機や爆弾、毒ガスまで用意したというものですから、なかなか本格的です。

この一連の事件が翌昭和7年の5.15事件、昭和10年の天皇機関説事件、相澤中佐の永野軍務局長惨殺事件、昭和11年の2.26事件につながっていくわけで、このあたりの歴史を理解するのに貴重な本です。

また、この手記には杉山茂丸や頭山満なども登場しているので、その面からも面白いと思います。

著者の中野雅夫という人のコメントもなかなか面白いです。この人はこのあたりの戦前の昭和史研究を行ったジャーナリストで、何冊もの本を書いています。

この橋本欣五郎の手記によると、10月事件の時のクーデター計画は2.26事件のクーデターもどきよりはるかに徹底していたもののようですが、実現性については疑問です。

全ては橋本欣五郎その他ごく少数の人だけが知っていて、現場の将校達は橋本欣五郎の命令でごく当たり前のように部下の兵士たちを動かして重臣たちを殺害することが前提となっているようですから。
橋本大佐というのは参謀本部にいた人なので、自分が作戦を立てて命令すれば現場の将校はそれに従って行動する、と何の疑問もなく思っていたんでしょうね。

しかしこの昭和6年の一連の動きが2.26事件につながり太平洋戦争につながってしまったことを思うと、この手記およびそれに対する著者のコメントは一読の価値があります。

このあたり、陸軍や青年将校や昭和維新などに興味がある人にはお勧めです。

アフラックの『給与サポート保険(就労所得保障保険)』

8月 4th, 2016

ライフネット生命は株式を公開しているので、ライフネット生命の投資家向けの掲示板がネット上にあります(ライフネットのサイトとは別の、yahooのサイトです)。

投資家がどんな事を考えているのか知るためにこのサイトを見るようになり、なかなか楽しいのですが、近ごろ『働く人への保険2(就業不能保険(2016))』が話題になりました。これはアフラックが『給与サポート保険(就労所得保障保険)』を発売することになり、ライフネットの商品と直接バッティングしてしまうということからです。

で、商品の優劣比較の話から、保障内容の違いの話になりました。

成り行きで私もライフネット生命①『働く人への保険(就業不能保険)』、その改良型の②『働く人への保険2(就業不能保険(2016))』、アフラックの③『給与サポート保険(就労所得保障保険)』の3つについて約款を読んで、簡単にコメントしました。

ライフネット生命の①『働く人への保険(就業不能保険)』は被保険者が『就業不能状態』になり、その状態が180日を超えている場合に給付金を払います。その『就業不能状態』というのは『入院または在宅療養しており、少なくとも6ヵ月以上いかなる職業においても全く就業ができないと医学的見地から判断される状態』と定義されています。

次にその改良型の②『働く人への保険2(就業不能保険(2016))』では被保険者が『就業不能状態』になり、その状態が支払い対象外期間を超えている場合に給付金を払います。この商品では『就業不能状態』は『入院または自宅等で在宅療養している状態』と定義されています。
ここで在宅療養については、『軽労働または座業ができる場合は在宅療養をしているとは言いません』という注がついています。

最後にアフラックの③『給与サポート保険(就労所得保障保険)』では、被保険者が『就労困難状態』に該当し、それが60日継続した場合に給付金を支払います。この『就労困難状態』とは、『入院・在宅療養あるいは国民年金法に定める障害等級1級または2級を含む所定の障害状態に該当した場合』と定義しています。

ライフネット生命の①『働く人への保険(就業不能保険)』の『少なくとも6ヵ月以上いかなる職業においても全く就業ができないと医学的見地から判断される状態』というのは、医学的見地から何をどうやって判断するんだろう、そんな診断を求められたお医者さんは困るだろうな、ライフネットは何らかのガイドラインなりマニュアルなりを用意してお医者さんに提供しているんだろうか、と思います。

ライフネット生命の次の②『働く人への保険2(就業不能保険(2016))』では、診断の内容はかなり分かりやすくなっていますが、それでも『軽作業または座業』ができるかどうか、というのはどうやって見極めるんだろう、と思ってしまいます。『できる』というのは実際にやってみれば良いので判定しやすいですが、『できない』というのはなかなか判定が難しそうだなと思います。

その点アフラックの③『給与サポート保険(就労所得保障保険)』ではそのような判断は不要で、入院しているか自宅等で在宅療養しているか、あるいは具体的に列挙されている障害状態に該当するかどうかの確認ですから、お医者さんも気が楽です。

そこであとは働ける、あるいは働いている時でも給付金が支払われるのかどうか、ということになります。

ライフネット生命の①『働く人への保険(就業不能保険)』では明確に『いかなる職業においても全く就労ができない』となっているので、働ける、あるいは働いている場合は給付金が支払われないことは明らかです。

そこであとはライフネット生命の②『働く人への保険2(就業不能保険(2016))』と、アフラックの③『給与サポート保険(就労所得保障保険)』ですが、どちらも入院については例によって『治療に専念している』という条件が付いています。これを『治療に専念していれば働いていても給付対象になる』と考えることもできるし、『働いているんなら治療に専念しているとは言えないから給付対象にはならない』と考えることもできます。

自宅等での療養については、ライフネット生命の②『働く人への保険2(就業不能保険(2016))』では『軽労働または座業ができる場合は在宅療養をしているとは言いません』という注により、働ける・働いている時は給付の対象にはならないんだろうな、と思います。アフラックの③『給与サポート保険(就労所得保障保険)』ではこれまた『治療に専念し』という文字がついているので、入院の時と同じような問題になります。

最後にアフラックの③『給与サポート保険(就労所得保障保険)』の障害状態については、その障害状態に該当するかどうかだけが要件になるので、働けるか働いているかにはかかわりなく給付金は支払われることになります。

とまあ、だいだいこんなことをコメントした所、その掲示板の参加者から、これらの保険は『働けない時の保険』なんだから、働ける時・働いている時に給付金が支払われるわけがないじゃないか、という投稿がありました。

私としては約款を読むとこういう解釈になる、という話をしたのですが、その人はアフラックのコールセンターに電話して確認したんだ、と言っているので、先日アフラックのコールセンターに電話して聞いてみました。すると驚いたことにコールセンターの担当者もその人と同じように『この保険は『働けない時の保険だから、働ける時・働いている時は給付金は支払われません』という答えでした。

約款の『就労困難状態』の定義には、働けるとか働いているとかの条件は付いてませんよ、といくら言っても答えは変わりません。ちゃんと確認してくれと言うと、しばらく待たされて『確認しました』と言って、答は変わりません。

何度か繰り返し確認して分かったのは、『就労困難状態』というのは『就労が困難な状態』だから働ける・働いているという状態は『就労困難状態』ではない、という話です。

『就労困難状態』というのは『就労が困難な状態』ではなく、約款に列挙してある状態のことではないんですか、と言っても、答は『就労困難状態』というのは『就労が困難な状態であって、約款に列挙してある状態ということだ』という答えです。

これ以上は話をしてもラチがあかないので、アフラックの商品担当の人に確認したのかと聞くと、コールセンターで受けた電話なのでコールセンターの中のこの保険に詳しい人に確認した、商品担当の人には確認しないという答。商品担当の人と話をしたいと言っても、コールセンターで受けた電話なので商品担当の人につなぐことはできないという答。商品担当の人に電話したいと言っても、コールセンターで受けた電話なので商品担当の部署の電話番号は教えられない、という回答でした。

コールセンターの担当者としては首尾一貫した見事な対応です。話がなかなか進まないで私がちょっときつい言い方をした時も、あくまで丁寧な受け答えで素晴らしい対応でした。

ということで、コールセンターのあまりの素晴らしい対応の結果、アフラックの商品部門に直接の知り合いのいない私としては、ニッチもサッチも行かなくなってしまって、仕方なくこのブログに書くことにしました。

この3つの約款は

  1. ライフネットの『働く人への保険(就業不能保険)』
    https://www.lifenet-seimei.co.jp/shared/pdf/LIFENET_policy_201412_1000.pdf
  2. ライフネットの『働く人への保険2(就業不能保険(2016))』
    http://www.lifenet-seimei.co.jp/shared/pdf/LIFENET_policy_201606_1000.pdf
  3. アフラックの『給与サポート保険(就労所得保障保険)』
    http://www.aflac.co.jp/yakkan/pdf/kyuyo_77875700.pdf

で、pdfファイルが入手できます。

興味がある人は、夏の夜の暑気払いを兼ねて気分転換にこの約款を見て、私の解釈とアフラックのコールセンターの回答のどちらが正しいか、考えてみて下さい。

もし私の解釈が正しくてアフラックのコールセンターが私に対して行ったと同じ説明をしているとすると、これは将来的に給付金不払い問題の原因となるかも知れません。

もしアフラックのコールセンターの答が正しいのだとすると、アフラックの約款の規定がちょっと不備だ、ということになるんではないか、と思います。

もしこのブログの読者の中でアフラックの商品関係の部署に知り合いのいる人がいたら、アフラックの商品部門の見解を聞いて私にお知らせ頂けると有難いです。

インターネットの世界では知り合いの知り合いの知り合いの・・・と、何段階かすると殆ど全世界の人とつながれるという話ですから、うまく行けばこのブログの記事もアフラックに到着し、何らかの納得できる説明が聞けるかも知れません。

なお、厄介なことに、最初に紹介した掲示板では参加者のうちの何人かが同様にアフラックのコールセンターに照会の電話をしていて、ある人は『働けるなら給付金は支払われない』という回答を得ており、ある人は『障害等級1級または2級で給付金が支払われる場合は、働けるかどうか、働いているかどうかに関わりなく支払われる』という回答を得ており、ある人は最初は『支払われない』という回答だったのが、本当にそうか確認してくれと言ったら『確認の結果支払われないと言ったのは間違いで、支払われます』という回答を得ている、と投稿されています。

お勧めしない本

8月 1st, 2016

今まで『本を読む楽しみ』では、お勧めの本の紹介をしていました。

最近読んだ本のうち3冊が、逆に『お勧めしない本」だったので、紹介します。
それでも読んでみよう!という方は、ご自由にお読みください。

1冊目は林 千勝著『日米開戦 陸軍の勝算』という本です。この本では太平洋戦争は日本が勝つ確実なシナリオが出来上がっていたのに、海軍の山本五十六が真珠湾攻撃などシナリオに反することをしたので、必勝のシナリオが崩れて日本が敗けたんだ、と言っている本です。

戦前は陸軍と海軍が互いに悪口を言い合って、戦後も戦争に負けたのも陸軍のせいだ、海軍のせいだという議論があったのは知っていますが、この著者は1961年生まれの人です。こんな人までその議論が引き継がれているのか、とビックリしました。

この本の主旨は、日米開戦に先立って陸軍では『戦争経済研究班』を作り、完全にアメリカに勝てるシナリオを作っていた。にもかかわらずそのシナリオを壊すようなことを海軍がやったものだから、結局日本は戦争に負けた、という話です。

元々日米の国力差から、陸軍ではどうやってもアメリカには勝てないというシナリオをいくつも作っていたのですが、天皇の『どうせやっても勝てない戦争をすべきじゃないんじゃないか』との意向に逆らっても、戦争をするために無理やり作りあげたのがこの『戦争経済研究班』のシナリオのようなんですが、著者はこのシナリオこそ完璧で、完全に正しいシナリオだ、という前提でこれに反する事実を次々に否定していきます。

で、真珠湾攻撃ですが、これをやったことによって、アメリカが本気になって生産力をアップしたら、結果この『戦争経済研究班』のシナリオで想定していた生産力より大きくなってしまったということです。

ここで普通ならそのシナリオの想定が間違っていたんだ、と考える所ですが、著者は山本五十六が真珠湾攻撃などしたからシナリオが狂ってしまったんだ、というわけです。

シナリオではまずイギリスをやっつけるために太平洋は放ぽっておいて、インド洋に出てイギリスとインドの間の流通をストップすることになっているのに、実際はインド洋に出ていく代わりにフィリピンからニューギニア・太平洋諸島に出て行ったのが間違いだったなど、陸軍主導で起こったこともシナリオと違うことは全て海軍のせいにしています。

ある一つの資料がみつかった(と言ってもそのごく一部でしかないんですが)からといって、それが全く正しくて、それ以外の物事がたとえそれが現実であっても全て間違っていると考えられる、その観点で本まで書いてしまうというのは面白いですね。

ということで、この本を読んでみても殆ど役に立ちそうもありませんが、それでもこんな本も読んでみよう、という人はご自由にどうぞ。

2冊目は『アインシュタイン 双子のパラドックスの終焉』という千代島雅という人の書いたものです。

見るからにいかがわしそうな本なのですが、図書館のお持ち帰りコーナーに置いてあったので、どのようにいかがわしいのか読んでみよう、と思って貰ってきました。

読んでみると案の定いかがわしい本だったのですが、そのいかがわしい本を書いているのが大学の助教授だ(書いた当時)というので、さらにヘェーといったところです。

本人は科学者ではなく哲学者だ、ということになっているんですが、物理学をテーマにした本でさんざん物理学者の悪口を言って、いかにも自分の方が分かっているというふりをしている人です。

このテーマの『双子のパラドックス」というのは、アインシュタインの特殊相対性理論に関わる有名な『パラドックス』なんですが、これも世間一般に『パラドックス』と言われているだけの話で、物理学者にとってはパラドックスでも何でもない話です。

本の最後の部分で、これが最終的なパラドックスの解決だと言って、解決にも何にもなってない的外れの議論をしているのにはア然とするしかありません。

で、このパラドックスをめぐって、ニュートンだとかライプニッツだとかの名前を出し、ギリシャ時代のゼノンという哲学者の『ゼノンのパラドックス』の話を出し、自分は哲学者で物理学者ではないけれど、自分の方がよっぽども物理学をちゃんと理解している、物理学者は自分の頭で考えようとしないので何も分かっていないなどと、分かっていないのは本人の方なのにまるで見当違いの非難をすると、中味がまるで何もない本なのにいかにもまともそうな本になって出版される、というのも面白いものです。

中味のまるでない本ですが、いかに中味のない本か確かめたいというもの好きの人には面白いかも知れません。

最後の3冊目は、孫﨑亨さんの『日米開戦の正体』という本です。

この本の著者は外務省で局長をやったりイランの大使をやったりした、それなりの大物の元外交官です。

で、この本ですが、私は今までかなりの数の本を読んでいると思いますが、読んでいて気持ちが悪くなって吐き気がした、というのはこの本が初めての体験です。

と言っても別に気味の悪い話とか怖い話とかが書いてあるわけではありません。太平洋戦争の日米開戦に至る経緯を、いろんな本からの引用で紹介しているだけの本です。

著者は、自分が書いた文章では信用してもらえないだろうから、その当時の人が書いた本から引用するんだと言って、それこそ山ほどの本から数行あるいは10数行ずつ引用して、その引用の間を自分の文章で続けるという形のものですが、その引用されている部分がどのような文脈でどのような意図で書かれているかなどということはまるっきり無関係に、『その当時の人がこう言っているんだからこれが真実だ』という具合に論理を展開していく、そのやり方に何ページか読んだところで吐き気を催してしまった、というわけです。

このようなやり方で文書を切り貼りしていけば、どんな筋書きでも『これが真実だ』というものができるんだろうな、そのために山ほどの文献に目を通し、自分に都合の良い所だけ切り取っていくという大変な作業が必要なんだろうな、そうした所で歴史の現実にはまるで関係ない自分の見たい物しか見えないんだろうな、と思います。

よくもまぁこんなやり方で500ページもの本を書いたものだなと感心します。

で、このようなやり方で主張しようとしているのは、
今の日本が原発の再稼働・TPPへの参加・消費税増税・集団的自衛権・特定秘密保護法などにより75年前の愚かな真珠湾攻撃への道と同じような道を進んでいる。
それは
・本質論が論議されないこと
・詭弁・嘘で重要政策がどんどん進められること
・本質論を説き、邪魔な人間とみなされる人はどんどん排除されていくこと
だ、ということです。

そのように思いたい人にとってはそのように見えるのかな、と思います。
そんな人に付き合いたいとは思いませんが。

真面目に読むと吐き気が続きそうなので、適当にチラチラ眺めながら読むことにしました。この気持ち悪さ・吐き気は他の人も同じ反応になるかどうか分かりませんが、それでも試してみたいと思う人はトライしてみて下さい。

お勧めはしませんが。

NHKの『未解決事件 file5 ロッキード事件』

7月 29th, 2016

3部構成でちょっと長かったのでビデオに撮って、ようやく見終わりました(全部で3時間15分あります)。

第1部と第2部ではドラマ仕立てで、ロッキード裁判の時の話が再現されていました。案の定、あの事件で検察側で大活躍した堀田力さんや、田中金脈で有名になった立花隆さんなどが自慢そうにコメントに登場していました。

第3部では『40年後の真実』ということで、最近分かった情報が紹介されました。

それによるとロッキード事件の5億円というのは、全日空がトライスターを導入するためのお金ではなく、自衛隊が対潜哨戒機としてP3Cを採用するためのお金だ、ということです。

この話がロッキード裁判の時に明らかになっていたら、ロッキード裁判のほとんどは吹っ飛んでいたはずです。お金の目的がまるで違っていたんですから。

堀田さん達がアメリカから得々として運んできた資料では、事前にアメリカで、P3C関係の情報は綺麗に削除されていた、ということです。

田中角栄さんは一審で有罪判決を受け、高裁は控訴棄却、その後最高裁は徹底して判決を避け、被告人が死亡することをひたすら待ち続けて判決を出すことを巧妙に回避しました。これが有罪判決をしていたら、それこそ世紀の大誤審ということになっていたはずです。

この第3部を受け堀田さんや立花さんの顔を見たいもんだ、とも思ったのですが、どちらも頭が良くて弁の立つ人ですから、適当に言いくるめて自分を正当化するコメントをするんだろうなと思い直したら、この二人のコメントが第3部に入ってなくて、聞かされることにならなくて良かったなと思いました。

『近代イスラームの挑戦』 山内昌之著

6月 21st, 2016

これは中央公論社の『世界の歴史』の20巻目です。
ここに辿り着くまで、最初はプライムニュースの番組で元外務省の佐藤優さんとイスラーム研究者というか歴史学者というかの山内昌之さんが登場した回を見たことから始まります。

この回の話は非常に面白く、その番組の中でこの二人がその少し前に対談して本を出した、と言っていました。その本を探して読んだのが『第三次世界大戦の罠』という本です。

この本は読み応えタップリの本で、イスラーム世界の全体構造をIS(イスラム国)が活躍するイラク・シリア、それを取り巻くイスラム世界の基本構造としてのイランとサウジアラビアの対立、その周辺のトルコとエジプト、サウジアラビアの周辺のアラブ諸国、さらにそれを取り巻くロシア・中国・ギリシャ・ヨーロッパ諸国が歴史的・地勢学的にどのような立場でどのように考えているか・・・ということが見事に描かれています。

しかし対談というのはあまり詳しい説明は期待できず、対談している二人が共通して良く知っているようなことは当り前のこととしてちょっと触れるだけで終わってしまいます。もう少しじっくり知りたいと思って次に読んだのが『民族と国家-イスラム史の視点から』という山内さんの書いた、岩波新書です。

この本も素晴らしい本でしたが、やはり新書ということでちょっと物足りない気がして、3冊目に読んだのがこの本です。

この本は『世界の歴史』の中の1冊ということで、イスラム世界全体の歴史、というより秀吉の頃から第一次大戦が終わるまでの時代のイスラム世界をオスマン帝国を中心に、日本との関係、すなわち日本がイスラム世界をどのように知ったのか、また明治時代以降は日本をイスラム世界がどのように見ていたかを中心に解説してあります。

秀吉は天下人となった直後、朝鮮を攻める前にまずはフィリピンのルソンに書簡を送って臣従を求めたけれど、その少し前フィリピンはスペインに占領され植民地になってしまっていた、という話から始まります。

もし秀吉がフィリピンを臣従させていたとしたら、多くの原住民は素直に従っただろうけれど、一部イスラム教徒の住民だけは最後まで抵抗したかも知れない、という話です。

その後江戸時代になると、長崎の出島のオランダ商館長が新しい情報が入るたびに幕府に『オランダ風説書』という報告書を提出します。それによって日本人はヨーロッパを中心とする世界の情勢を知ることになるのですが、イスラム世界の動きもその中に記載されています。

で、この本はその『オランダ風説書』のイスラム世界の動きについての記述が狂言回しとなって、オスマン帝国とその周辺の出来事について解説されていきます。

幕末から明治になると、日本から多数の使節・調査団・留学生がヨーロッパを訪れます。彼らはエジプトのスエズを経由するので、その途中でエジプト見物をしたりあるいはオスマン帝国の各地訪ねたりして、その見聞録だったり日誌だったりが、次に狂言回しの役割を果たします。

日清・日露の戦争のあたりになると、今度はこの日本が、中国に勝った、ロシアに勝った、ということをイスラム世界がどのように感じ、どのように報じたかということがもう一つのテーマになります。中国はともかくロシアにはイスラム世界はひどい目に遭ってきた相手であり、またイギリス・フランスを含めた白人諸国全体としてもイスラム世界はひどい目にあってきて、そのロシアを極東の非白人の日本がやっつけた、ということで熱狂的な騒ぎになったあたりがきちんと解説されています。

この本では江戸時代のちょっと前から第一次大戦の終わるあたりまでの時代を扱っています。私は、現在の中東のイラク・シリア・レバノン・ヨルダン・イスラエル・サウジアラビアなどの国がどのようにできたかきちんと知りたいと以前から思っていたのですが、残念ながらその直前で本が終わってしまいました。(この部分については図書館で見つくろって、今度は講談社の世界の歴史の第22巻『アラブの覚醒』というのを読みました。この本ではドンピシャリ、これらの中東の国々がどのようにできたか、が詳しく書いてあります)。

『近代イスラームの挑戦』の方は、オスマン帝国の本体である、トルコの部分とオスマン帝国の一部であり、独立して国になろうとしたエジプトがある意味主人公のようになっていますが、中国とトルコ、日本とエジプトを対比して何が同じで何が違うのかという視点からも書かれています。この視点からこの本を読むと考える所がたくさんあります。

地勢学というのがこれらの本のベースとなっている見方なんですが、つくづく日本というのは地勢学的にラッキーな国だな、と思います。トルコやエジプトの地勢学的な不利は、まず第一に、野蛮で凶暴なヨーロッパのすぐ隣に位置して、その影響を直接うけ、避けることができない、ということだと思います。その点、中国も日本もヨーロッパからかなり遠いのでラッキーだなと思います。

次にオスマン帝国が弱体化してヨーロッパのイギリスやフランス、そしてロシアが軍事的に優位に立ったとき、イギリスやフランスはすでにアジアに植民地ができており、ヨーロッパからアジアにアフリカ周りの航路は既に確立されていたものの、エジプトのスエズから紅海経由、あるいはシリア・イラクからペルシャ湾経由の方が経済的にはるかに有利であり、そのルートを使うためにはエジプトあるいはトルコをヨーロッパの思うように扱う必要があった、ということです。中国も日本もそのような通せんぼの位置にはなく、邪魔者になることはなかったので、その意味でヨーロッパ各国の攻撃対象にならないで済んだ、ということだと思います。

さらに日本は中国のすぐ近くにあり、中国に比べるとはるかに小さい国だったので、ヨーロッパからの侵略者達の目は中国に向かって、日本は放っておかれた、というのも地勢学的に有利な点だと思います。

以上、一連の本を通してイスラム世界・中東各国について、かなり見通しが良くなったように思います。

もし興味がある方がいたら、お勧めします。

『昭和維新-日本改造を目指した“草莽”たちの軌跡』

6月 14th, 2016

この本は、昭和初期から第二次大戦の前後までの期間、明治維新に続く(あるいはその完成を目指した)昭和維新という名の一連のテロリズム事件についてまとめて書かれているものです。本部500ページ強のちょっと大部な本です。

著者は“維新の志士”という言葉を使っていることからも分かるように、心情的にはどちらかと言うとこのテロリスト達の側に立っていますが、このテロリスト達に対する思い入れが強過ぎるということではなく、またテロの対象となった人達についても『悪者だ』と決めつける書き方でもなく、淡々と事件の経緯を記述しているので、テロリスト達に共感しない人にもあまり困難なく読めると思います。

この一覧のテロリズムのピークとなるのは、5・15事件、そして2・26事件であったりするのですが、その前後の未遂に終わったテロ計画等についても書いてあり、また登場人物も同じ人物が入れ替わり立ち代わり現れたりして全体像をつかむのに便利な本です。

例えば2・26事件について言えば、真崎教育総監更迭問題・永田鉄山斬殺事件・その犯人の相澤中佐の公判闘争、そして2・26事件そのもの、そのあとの東條英機暗殺計画と、7章にわたって書かれています。

個々の事件の内容についてはそれほど突っ込んで詳細に書かれているわけではありませんが、例えば相澤中佐の裁判と2・26事件がどのように密接に関連していたのかなどが良くわかるようになっています。

期間的には昭和5年から20年位、今から85年前から70年前位の間の出来事です。日本でもこのようにちょっと前までテロリズムが日常的だった時代がある、ということを思い起こすのにも良いと思います。
お勧めします。

今ではたとえば『アベシネ』とか『日本死ね』とかでも、デモで叫んだりネットで言い散らしたりすることはあっても現実にテロを企てて人殺しするようなことはほとんどなくなっています。日本も本当に豊かで良い国になったなと思います。