『書物』―森銑三、柴田宵曲

5月 24th, 2023

これは『書物』というタイトルで、書物好きの2人の著者が書物にまつわるあれこれについて自由に書いているエッセイ集です。

第二次大戦が始まって紙が不足して出版するのが難しくなった頃の昭和19年に初版が出て、戦争が終わってどんな本でも飛ぶように売れた頃の昭和23年に1編削って16編書き加えた形で再版され、その後それぞれの著者の分がそれぞれの全集に収められていたのを、その後50年経って初版再版に入っていたものを全てまとめて1997年に岩波文庫から出版され、それをさらに25年経ってから私が読んでいる、という何とも気の抜けた話です。

テーマは本にまつわる様々なことで、書名についてとか読む場所とか本の貸し借りとか、自著とか辞書とか貸本屋とか図書館とか、活字本でない木版本・写本とか古本屋とか、とにかく様々です。まだテレビがなくラジオが普通に聞けるようになった頃で、面白い本の著者をラジオの前で何か喋らせたら、とか、空襲で本が焼けてしまった話とか、盛りだくさんです。

登場人物もたくさんいて、私も名前だけ知っている人や名前も知らない人がたくさん出てきます。一方の著者は図書館に勤めたり大きな文庫の整理をしたりした人で、もう一方の著者は俳人としても有名な人で、いずれも自分で著作するより数多い書物を楽しむことを第一とした人のようで、本当に本が好きな人だなということが良くわかります。

この本は図書館のお勧めコーナーにあった本で、手術のための入院で気楽に読める本が良いかなと思っていた時にちょうど見つけて、予定通り気楽に読めました。どこから読んでもどこを読んでも同じように楽しめます。
本にまつわるいろんな人のいろんなエピソードもふんだんに書かれてあり、楽しめました。

1つだけあれ、と思ったのは
『「だれでも作れる俳句」というのは良い本だそうだが、正しくは「作られる俳句」たるべきで「作れるは片言(かたこと)である」』
という部分があり、言葉の使い方に几帳面な人だな、と思ったのですが、私の感覚では『作れる』の方が自然で『作られる』の方が不自然のような気がします。例の『れる-られる』問題なのですが、本当はどうなんでしょうか。

この本では時節がら『事変前』とか『事変後』とか普通に出てきます。これは満州事変の事なのか、支那事変のことなのか、どっちの事なのかなと思ったり、多分今では『終戦後』という所だと思われる所、『停戦後』という言葉を使っています。当時このような言い方があったのかなと思います。

著者自身
『「書物に興味を持って書物と共に暮らしている二人の男のたわごと」ともいうべき見事無用の所が出来上がった。「書物」という書名が漠然としているように、この書の内容も漠然としている。徹頭徹尾たわごとに終始している。とりとめもない事ばかりを述べている。・・・かような書物を作ったことにどう意義があるのかそれは私らにも分からない。始末の悪い書物を拵えてしまったものだと今になって思っている。』
なんて書いているように見事にどうでもよい本で、そのどうでも良い所が本好きには堪らないということで、再版が出てから半世紀もたって岩波文庫に入り、4分の3世紀も経って私が読んでいるという事で、本当に何やってんだかと思ってしまいます。

本好きでとりとめなくどうでもよい本に興味がある人にお勧めです。

Chat-GPTと量子コンピュータ

5月 24th, 2023

Chat-GPTでAIを相手に遊ぶ、ということがはやっているようです。
ネットに出てくるchat-GPTへの『こう質問したらこう回答があった』という記事はなかなか面白いものです。

その内容については物笑いの種でしかないものですが、驚いたことに日本語としては殆ど違和感のない見事な日本語になっています。

様々な詐欺メールは、まず第一に『日本語がおかしい』という所でチェックされ、怪しいなと警戒するのが普通です。
今後このchat-GPTのようなAIシステムを利用しておかしな日本語がまっとうな日本語になって現れるようになると、詐欺メールの判定がちょっと難しくなりますね。

AIの進化、面白がってばかりもいられませんね。

もう一つ、『量子コンピュータ』というものがいよいよ実用化されようとしているようですね。

こうなると、いわゆる暗号化で、この暗号はコンピュータを使っても解読するのに何百年もかかる、と言われていたものが、ほんの数分で解読できるという世界が来てしまうのかも知れません。

今までのコンピュータセキュリティの世界が大幅に変わってしまうのかも知れません。
暗号が解読されるようになってもわざわざ大金をかけて解読なんてしないだろうと思ってそのまま使い続けるか、量子コンピュータを使っても解読するのに何百年もかかような暗号システムに作りなおすか、あるいは暗号システムとは全く別の何らかのシステムに乗り換えるか、いずれにしても厄介な話です。

通信の暗号化の話はこれで良いのですが、ビットコインなどのいわゆる暗号通貨、あるいは暗号資産と言われるものはどうなってしまうんでしょう。

システムを新しいものに替えると言っても、今既に暗号通貨として流通してしまっているものを新しいシステムに移し替えるというのは新しいシステムを作るよりはるかに難しいことになりそうです。

かと言って、これを機に暗号通貨が一気に終焉するというわけにもいかないでしょう。

私が生きている間にその行向が見えてくるんでしょうか。
楽しみですね。

『古事記と日本書紀』-神野志隆光

5月 23rd, 2023

『古事記』と『日本書紀』とは日本の神話と神代からの歴史をまとめた書物として説明されているものですが、この本ではこれらの本がどのように日本で読まれ続けてきたのか説明してくれています。

はじめに本居宣長の『古事記伝』の話をして、この本は本居宣長が古事記の説明をするというより、古事記にまとめられるそれ以前の古事記の姿を探し求めるというものだ、ということになるようです。文字になる前の言葉を、文字になった後の古事記や日本書記の中から探しだそうということのようです。そして『もののあわれ』というものがその本質だ、ということが説明されます。

次の章では中世の日本書記の理解について、その当時の中国の文献・仏教の文献を使いながら、神道・仏教・儒教・道教も本質は同じなんだとして理解しようとしていたことが説明されます。

次の章では古事記・日本書紀は日本の神話、というよりむしろ天皇の神話なんだという話があり、次の章では古事記の神話、次の章では日本書紀の神話が紹介されます。

ここで今まで私は古事記と日本書紀、どちらも神話の部分は同じようなことが書かれているものだと思っていましたが、実はかなり違うものだということが説明されます。

イザナキ・イザナミ神話では、火の神を産んだ時イザナミが死んでしまい、黄泉の国へ行ってしまったので、イザナキはそのあとを追っていくんだけれど、イザナミの恐ろしい姿を見て逃げ出したという話は古事記の話で、日本書紀ではイザナミは死なず、その後もイザナキと一緒に国造りをする、とか、高天原(タカマガハラ・タカアマノハラ)に神々が生まれ、イザナキ・イザナミが国作りをするというのは古事記の神話の話で、日本書紀には高天原は登場しない、天の世界が高天原とよばれることはない、というのもビックリする話です。

さらには『アマテラス』というは古事記では神話の世界の主人公的役割を果たす重要な神ですが、日本書紀では『日の神』として登場するだけで大した役割を果たすわけではないという話にもびっくりします。

これほど根本的な違いがあるにもかかわらず古事記の世界と日本書紀の世界を一つの世界として統一し、さらに中国の思想や仏教の世界まで一緒に一つの世界として統一し、さらには天皇家の様々な祭祀とそこで唱えられる祝詞(のりと)の世界まで含めて統一してしまおうと言うのが今までの考え方で、そのために非常に豊かな神話の世界が出来上がったのだけれど、これは改めて別々の神話だという視点で見直す必要があるのではないか、というのが著者の言い分です。

まあ、同じような事柄について二つの異なる説明がある場合、どちらかが正しくてそうでないほうが間違っている、と言えない時に、何とかして両方を立てて統合したくなる、というのはごく自然なことなので、これも仕方のないことなのかもしれませんが。

こう言われてしまうと今まで漠然と日本の神話として考えていたものが古事記の世界なのか、日本書紀の世界なのか、祝詞の世界なのか、一体何だったのか改めて読んでみたいという気持になります。

今まで自分の考えていたこと、知っていたことは一体何だったんだろうと思わせる不思議な本です。またひとつ大きな課題がみつかってしまいました。古事記にしろ日本書紀にしろ、万葉仮名付きの漢文あるいは変体漢文の世界ですから、読むのは結構大変そうです。

さてどうなりますやら。

入院・手術・退院のお知らせ

5月 18th, 2023

先週5月10日~12日、近くの日赤病院に入院し、手術してきました。

約2年前、ちょうど2回目の東京オリンピックの開会式の頃骨折で入院して、開会式は病院のベッドで見ていたのですが、それから2年近く、その手術で骨を留めるために埋め込んだ金属板(プレート)とネジ(ビス)を取り外す手術を行うための入院です。

本来であればこの手術は最初の手術から1年から1年半経過した所で行うことになっているんですが、病院としてはこの手術にはあまり乗り気でなく、そこを無理を言っての手術となりました。

手術が遅くなったのは、一つには例によって武漢コロナのせいで不要不急の手術はしない、という原則で延び延びになってしまったという事と、コロナの収束に伴ってこの不要不急の手術が復活してきて、先延ばしにされた手術のために全身麻酔の順番がなかなか回ってこなかった、ということが原因です。

もう一つの原因は、病院のスタンスとして高齢者の場合(どうも老人とか年寄りという言葉は今やほぼ禁句になってしまったようで、私などは基本的に高齢者とよばれるようです)、手術に伴ってトラブルが発生した場合、手術によるメリットよりそれらのトラブルによるデメリットの方が大きくなる可能性があり、『必要でない手術はしない』という考え方のようです。

『金属板(プレート)とネジ(ビス)と言っても材料が良くなっていて、CTやMRIの検査を受けるのに何の支障もないし空港などのセキュリティーチェックのゲートで止められることもないので、あえて取る必要もないでしょう』というのも説得力があります。リスクの方は、手術の際神経や血管を傷つけてしまう可能性もないではないし、またリンパ管を切断してまた足がむくんでパンパンに膨れ上がってしまうかもしれないし、へたをすると全身麻酔からうまく覚めないかも知れないし、手術から2年近くたって骨としっかりくっついてしまってうまく取れないかもしれない、無理やり取ろうとしたら逆に新たに骨折してしまうかも知れない、というような事です。

確かに2年近くも身体の一部だったものをわざわざ取り外すこともないかとも思うのですが、やはり異物が身体の中に入っているというもちょっと嫌なので、死ぬ前に身綺麗にしておこうということで取ってもらうことにしたわけです。また私は普段からあぐらを組んで座ることが普通なのですが、左足を下にする時はちょうどその金属板の上に座るということになり、やはりちょっと痛みがあります。

で、水曜日の朝10時に入院、麻酔医との面接や手術前のシャワーなどがあり1日目終了。2日目は朝から点滴、朝食・昼食抜きで11時半いよいよ手術です。手術は2時間くらいで終わったようで、麻酔から覚めたらあとはベッドでおとなしくしているだけです。3日目は朝食後朝9時半に退院ですからあっという間の入・退院です。

9時半の退院で10時には自宅に帰りつき、あとはのんびりしているだけです。念のため土日は自宅でおとなしくしていて、月曜からオフィスに出ています。

入院しても手術を受ける2時間を除けば特にすることもないので、本を読もうと思って持って行ったのが、
・ 『古事記と日本書紀-『天皇神話』の歴史』 という講談社新書
・ 『ナチ占領下のフランス-沈黙・抵抗・協力』 という講談社選書メチエの1冊
・ 『書物』 という岩波文庫の一冊
・ 『量子の道草』 という物理学・量子力学のいくつもの式をめぐるエッセイ
の4冊です。

どちらも読みさしの本を持って行って、あわよくば読了を狙ったものです。

改めてこのように列挙してみると見事に支離滅裂な品揃えになっていて、笑ってしまいますね。
このうち2冊、『古事記と日本書紀』の本と『ナチ占領下のフランス』は無事読了しました。『量子の道草』というのは最初から読了するのはほとんど期待していません。『書物』というのは図書館に返さなければならないので、近日中に読了する予定です。

いずれにしても読み終わった所で順次感想文をこのブログに載せる予定です。しばらくお待ち下さい。

ということで、ゴールデンウイーク明けに入院と手術を受けて無事カンバックした事の報告です。

『リス殺し』

4月 24th, 2023

『リス殺し』と言っても動物虐待の話ではありません。今はやりの『リスキリング』のことです。

これがリ・スキリングと書いてあれば良いのですが、リスキリングと続けて書かれてしまうとどうしても『リス殺し』という言葉が最初に頭に浮かんできて、そのあとで『じゃなくてリ・スキリングの事か』と思い至るという事です。

でこの言葉、私の若い頃は何と言っていたんだろうと思って考えてみたら、『自己啓発』という言葉にたどり着きました。

自分の知識の幅を広げ深みを増すために自己啓発に励みなさい、と言って、セミナーに参加させられたり本を読まされたりしたものです。

今回のリス殺しにしても誰が言い出したものなのか分かりませんが、これによって収入を得ているコンサルタントやセミナー屋さんがどれくらい多くいるのかと思うと、大変なものです。

こういうコンサルティング業界というのは、一つの言葉を発明し、それがうまく当たると膨大な数の人の収入源になるという性格のものです。

今更自己啓発などという古めかしいホコリのついた言葉でなく、『リスキリング』と言えば何となく格好良いし英語みたいだし、『リス殺し』というちょっと怖いようなニュアンスもあるし、ということで、なかなかのネーミングだと思います。

とまれ、もはや私はこのリス殺しを他人に強制する立場でもなく他人に強制される立場にもないので、気楽なものです。

若い人は就職した途端あるいは就職する前から、何一つ学び終わったことも仕事を覚えたこともないのにリス殺しを強制されるというのはつくづく大変だなあと思ってしまいます。

『ウニはすごいバッタもすごい』ー本川達雄

4月 11th, 2023

昨年末オフィスの年末の整理をしていたらひょっこり『生き物は円柱形』という本が出てきました。この本は会社を畳んで大宮に引っ越しをする時に、買って途中まで読んだ所でちょっと分からない所が出て来たので、友人が上京したら教えてもらおうと思って読むのを止めていた本で、その後コロナで友人が上京することができなくなったり、会社を閉めて神田のオフィスを閉めるときに引っ越し荷物にしまい込んだりしてそのままになっていた事を思い出しました。

この著者は昔『ゾウの時間ネズミの時間』という本を書いていて、この本が素晴らしかったのでこの『生き物は円柱形』という本をみつけ久しぶりに買ったのを思い出しました。で、改めてこの『生き物は円柱形』の本を始めから読み直してみたのですが、やはり面白く読めました。この本の最後の所に『ゾウの時間ネズミの時間』の話がもう少し整理された形で付いていました。

それでいつものようにイモヅル式を始めて、同じ著者の本を何冊か読んでみたのですが、この『ウニはすごいバッタもすごい』という本が何と言っても一番面白かったので紹介します。

この本は動物の分類上の

刺胞動物:サンゴ・イソギンチャク・クラゲの仲間
節足動物:三葉虫・エビ・カニ・フジツボ・昆虫・ムカデ・カブトガニ
     ・クモ・サソリの仲間
軟体動物:巻貝・二枚貝・オウムガイ・タコ・イカの仲間
棘皮生物:ウニ・ヒトデ・ナマコの仲間
脊索動物:ナメクジウオ・ホヤの仲間
脊椎動物:魚類・両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類

のそれぞれについて、身体の仕組・動くあるいは動かない仕組・餌を食べる仕組・呼吸の仕組を説明しています。棘皮生物については著者の専門分野だけに、他の動物がそれぞれ1章なのにこれだけ2章にわたって詳しく説明しています。

これを1つ1つ読んでいくと、動物というのは本当に様々な生き方をしていて、そのための仕組を使っているんだなあと思います。ともすると脊椎動物・哺乳類が一番進んだ仕組を持った高度な生物だと思いがちですが、そうではなくそれぞれの環境それぞれの生き方に応じてそれぞれの動物がそれぞれ独自の高度に進んだ仕組を持って生きているんだ、という事が良く分かります。

とにかく面白い本です。お勧めします。

Maxwellの『電磁気学』

3月 21st, 2023

かなり前からファイマンの物理学Ⅲ卷の電磁気学を読んでいるのですが、何とも心もとない感じです。説明を読み数式を追うことはできるのですが、どうしても『だから何』という感がぬぐえません。Ⅰ卷の『力学』の時にはこんなことはなかったのですが。

この本の第2章の最初に
『数学者や非常に数学的な心を持つ人は物理を“勉強”する時に迷ってしまうが、それは物理学を見失うからである』
『彼らは言う。“いいですか、これらの微分方程式-マクスウェル方程式-は電磁気学のすべてです。方程式に含まれていないものは何もないと物理学者は言います。なるほど方程式は複雑ですが、要するに数学的な等式に過ぎません。したがって方程式を数学的に理解し尽くせば物理学を理解することになる筈です。” 残念なことにそうはいかない・・・現実の世界の物理的状態は非常に複雑であるので、方程式のもっと深い理解が必要となる。・・・物理的な理解は全く非数学的、不確実で不正確なものであるが、物理学者にとって絶対に必要である。』

と書いてあります。もちろん私は数学者でもないし、非常に数学的な心を持っているわけでもありませんが、この物理学を『見失』なっているというのはそうかも知れないと思っています。いずれにしても物理的な理解がないことは確かそうです。
この部分、この本の最初のほうに書いてあるので、その時はそれほど気にせずに読み進めたのですが、読み進むうちにやっぱりそうだな、と思うようになりました。

苦し紛れにファイマンの本以外の本もいろいろつまみ食いしてみたのですが、この見失っている物理学の姿がなかなか見えて来ません。で、ついにこれはMaxwellの本を読んでみるしかないか、と思うに至りました。

Maxwell の電磁気学の本は『A TREATISE ON ELECTRICITY AND MAGNETISM』というタイトルで、日本語訳の本もありそうなのです(そう思っていたのですが、どうもこれはこの本の訳ではなく、Maxwellがマクスウェルの方程式を最初に発表した論文のほうの訳のようです)が、分からなくなった時に原文がわからないのか訳が分からないのか悩むのも面倒なので、この際英語だから何とかなるかも知れないと思い探してみました。ネットで検索するとこの本のpdf版がいくらでもあるので、これを印刷してしまえば良いんだと思いました。この本はⅠとⅡの2巻本で、どちらも500頁位です。幸いオフィスには会社時代使っていたレーザープリンターもまだあるし、ということで、まずⅠの方を印刷し、それでやめておこうかとも思ったのですが、この際ついでにという事でⅡの方も印刷してしまいました。まあ1日10頁読めば50日で1巻読めるので、半年もあればうまく行けばⅠⅡ卷とも読める、というトラヌタヌキの計算です。

電磁気学のマクスウェルの方程式はベクトル表現が使われていないので、今は4つの方程式になるものが20個もの方程式になっている、なんて話もあるので、そこらへんも確認してみようと思っていたら、何の事はない、本全体がPart ⅠからPart IVまでの4部構成の、その前にPreliminaryとしてベクトルの話がきちんと説明してあり、ストークスの定理・ガウスの定理などもちゃんと書いてあります。

またいろんな単位と次元の話もきちんと説明されています。前書きの最後の日付を見ると1873年2月1日となっていて、この本が書かれたのがちょうど150年前、フランスではもうメートル法が制定され、メートル原器も作られていて、イギリスではヤード・ポンド法でその原器も作られていて、国によって単位が違っても間違わないようにするために長さ・質料・時間の次元をL,M,Tで表して、常に単位と数量をはっきりさせるなんて話もきちんと書いてあります。

この時代、ハミルトンが四元数を発明(発見)していろいろ研究していた時代で、ベクトルの説明でも四元数を使ってスカラーと三次元ベクトルを統一的に扱うやり方もきちんと説明しています。残念ながら今では普通の数学の本でも物理の本でも、この四元数を使ってスカラーとベクトルを統一的に扱うということをきちんと書いてある本は殆どなくなってしまっているようです。

で、電磁気学の本ですから線積分や面積分の話が出てきて、面の向きを決めるという話になるのですが、ここで右ネジ(我々が普通に使う、右に回すと前に進むという形のネジやボルトのことです)の話が出てきて、注釈に、『今では文明国ではすべての国でこのネジの方向で統一されているけれど、文明国の中では日本だけが例外だ』ということが書いてあり、びっくりしました。150年前というのは明治維新のすぐあとの話で、この時すでに日本は文明国として認知されていたんだ、という事と、日本のネジの向きのことまでマクスウェルはどうして知っていたんだろう、なんて、不思議な話です。

このあたり、日本におけるネジの向きに関することについて、知っている人がいたら教えて下さい。

とまれもうすでにトラヌタヌキの計算は破綻して予定通り進んでいないのですが、新しい発見がいろいろあり(たとえば今はdivergence《発散》と言っているものを、この本ではマイナスを付けてconvergence《収束》と言って使っています。4元数をベースにした考え方では、ベクトルとベクトルの4元数としての積は、スカラー成分がベクトルの直積(内積)のマイナス、ベクトル成分がベクトルの外積となります。)、面白く読めそうです。

で、この本でもMaxwellは、物理学のイメージをしっかりつかむために、この本を読み終わったら是非ともファラデーの論文を読むように勧めています。多分ファラデーの論文というのはいくつもの論文に分かれていて、一つ一つは面白いと思うのですが、全体を通してまとめられているわけでもなさそうなので、やはりまずはこの本を読み、無事読み終わったらファラデーの方も読んでみようか、と思います。何年かかることかわかりませんが。

もし興味がある方がいたら読んでみて下さい。

『中東問題再考』-飯山 陽(イイヤマ アカリ)

2月 24th, 2023

かなり待たされましたが、図書館に同時に予約した飯山さんの本のうち、最後のものが来ました。

これはすごい本です。実名をあげて次から次に中東問題の『専門家』『メディア』『コメンテーター』の嘘を具体的に示しています。『誰それは、これこれの本でこう言ってますが、嘘です。』といった具合です。それにしてもそこに挙げられる人の名前がホントにいくらでも次から次に出てくるのには、呆れ果ててしまいます。

一度にこれだけ大勢の人を敵に回してしまうわけですから、その人々から一斉に攻撃されるのも仕方のないことです。とは言え、イスラム原理主義のテロリストの頭目のようなイスラム法学者にテレビでインタビューして、悪魔を見るような目で見られながら話をした著者にしてみれば、そんな有象無象は怖くも何ともない、という事でしょうか。

著者は『はじめに』で、中東問題を分かりにくくしている原因を二つにまとめています。『第一の原因は中東問題が複雑だからだ』『第二の原因は中東問題についての日本のメディアの報道と、それについての「専門家」と称される人々の解説が偏向していて、嘘が多いからだ』と、最初から平然とストレートに指摘しています。

その後各論に移って、アフガニスタンのタリバン、イランの原理主義イスラム法学者達、トルコのエルドアン政権、とマスコミや専門家が『親日』ともてはやしている国々が、実際『親日』とはまるで違っていて、原理主義過激派がいかにそれぞれの国民を虐げているか解説しながら、いかにメディアや専門家が嘘をバラ撒いているか、具体的に誰がどこにこう書いた、どこでどのように言っていたか、具体的に解説しています。

次に『なぜイスラム諸国は中国のウイグル人迫害に声を上げないのか』として、それらの国々の支配者たちが、ウイグル人や自国民の事より、中国の一帯一路により自分達がどれだけ儲けるかの方を優先しようとしていることを明らかにしています。次のパレスチナの所で、パレスチナを支配している過激テロリスト達がいかに住民を抑圧搾取して自分たちだけ贅沢をしているか、欧米・日本からの援助はすればするだけそのテロリスト達を豊かにして、パレスチナの住民を苦しめることになるか明らかにし、ここでもメディアや専門家は自分達の反米・反日にとって具合の悪いことについて目もくれず何も言わない、ということを明らかにしています。

一つ一つ指摘されていることは、その時々に多少とも報道されることも多いのですが、気を付けていないとメディアや専門家の曲解・意図的な嘘の報道でともすればかき消されてしまうような状況で、この本のように丁寧にまとめてくれると理解しやすくなります。

多くの国で過激派原理主義者やテロリスト達が、国民や住民を人質にとって反米・世界征服を企てている現状を、どのように解決することができるのかは分かりませんが、とりあえず現状がどうなっているか、という事だけでも正しく認識しておくことが大事だと思います。

恐い話が次々に出てきますので誰にでもお勧めというわけにはいきませんが、中東問題をちゃんと理解したい人、マスコミや専門家達に騙されたくない人、飯山陽という人がいかに危ない戦いをしている人か知りたい人にお勧めです。

『哺乳類誕生-乳の獲得と進化の謎』―酒井仙吉

2月 20th, 2023

植物の話が続いたので、今度は動物の哺乳類の話です。
著者は農学博士で専門は動物育種繁殖学、あるいは泌乳生理学、ホルモンによる調節機構ということで、哺乳動物の乳腺と泌乳のしくみについての部分がメインなんでしょうが、それだとあまりに専門的になってしまうからか、この本は3部構成で、第一部が進化と遺伝の話、第二部が動物が上陸してから哺乳類、人類にたどり着くまでの話。そして第三部で『進化の究極―乳腺と泌乳』で専門的な話を展開しています。

私も今まで哺乳類に関する本はいくつも読んだことがありますが、『哺乳に関する本』というのは初めて見たので面白そうだと思って借りてみました。もちろんこの本も稲垣さんの本からの芋づるの結果、たどり着いたものです。

第三部はさすがに専門家だけあって付いていくのが大変ですが、たとえば母乳は胃に入るといったん固まって、その結果赤ちゃんは満腹感を感じて眠る。そしてその固まりは少しずつ消化されるなんて話もあって面白い部分もあるのですが、むしろ第一部・第二部の方がわかりやすく楽しめました。

まず第一部、進化と遺伝の話ですが、ここで私は今までまるっきり思い違いをしていたことに気がつきました。
『進化』というのは遺伝子が突然変異してその変異が広まることによって起こるわけですが、この『突然変異』という言葉から何となく、滅多に起きない変化がある日どこかで突然起きて、それによって生物の生き様が変わってしまう、という位のイメージでした。

しかし有性生殖、というのは、メスとオスが減数分裂によって遺伝子を半分にし、その半分になった精子と卵子が接合して受精卵になるプロセスです。たとえばヒトでは遺伝子が23対46本の染色体にまとまっていて、それぞれの対は母親の卵子から来ているものと、父親の精子から来ているものが23対の何番目かという順番ごとに組み合わさったもので、減数分裂というのはそのそれぞれ何番目の対が倍になって4本の染色体になり、そこから4つに分かれて1本の染色体になり、計23本の染色体を持つ精子、23本の染色体を持つ卵子が一緒になって、23対46本の染色体の受精卵になるということです。

ここで減数分裂の際、23対の染色体のうち母親由来の方を選ぶのか、父親由来の方を選ぶかはどちらもありということです。だとすると23対の染色体から23本の染色体を選ぶ組み合わせは2の23乗、すなわち8百万通りの組合せということになります。精子の方の組合せが8百万通り、卵子の方の組合せが8百万通りですから、受精卵の方は8百万×8百万=64兆の組合わせということになります。

今地上の人類の総数が70億人とか80億人ということになっていますので、1人の父親・1人の母親から生まれる受精卵の染色体の組合せの数が64兆ということは、人類の数の1万倍ということになります。何ともビックリするような話です。もちろんこれは理論的に可能な組み合わせの数、ということで実際に64兆の受精卵ができる、という話ではありませんが。

このような話、このような数字を具体的に知ると『突然変異』というもののイメージもまるで違ってきます。即ちそれは、いつでもどこでもいたる所で起こっている変異だけれど、それがいつどこでどのような変異が起こるかは分からないという事です。

この精子・卵子の染色体の8百万通りの組合せ、受精卵の64兆通りの組合わせというのはごく正常な減数分裂と接合の結果ですから、これにさらに様々なエラー、組み替え、突然変異が加わるとさらにとんでもないことになります。

DNAというのは一般にタンパク質を作るための設計図だと説明されていますが、実はそれだけじゃなく、その設計図をいつコピーに回してタンパク質を作るかというコントロールの部分もあって、どの設計図をいつタンパク質製造に使うかによって、その生物の生き様が変わってくるということのようです。

染色体が23対あるという事は、それぞれの対の一方がちゃんと機能するのであればもう一方は突然変異で機能しなくなっていたとしても、そっちの方の設計図を使わないことにすれば生きていくのに問題ない。そのため使わない染色体の方に機能しない突然変異が次々に積み重なっても大丈夫だ。そしてある時今まで使わなかった方の設計図を使うような変異が生じた時、今までと違った生物が生まれるという話です。

さらに、遺伝子は今まで全ゲノム重複という、一度に全体が2倍になる、という変異を2回にわたって経験しており、この倍化によって付け加わった余分な遺伝子が様々に変異して様々な機能を獲得する、という話もあります。

何とも壮大な話で、それが常時いたる所で起こっているというのは、何とも呆れ果てる話です。

第二部の方は、魚類が上陸して両生類、そして爬虫類・恐竜・鳥類・哺乳類に進化していった筋書きがまとまっています。

たとえば魚類はメスが水中に卵を産んで、そこにオスが精子をかけて受精させる。両生類も基本的にそれと同じだったので水を離れることができなかった。爬虫類になると体内受精になったので、受精した後で卵に殻をかぶせて産むことにより陸上で卵を産むことができるようになった。鳥類ではさらに卵からかえったヒナに親が餌を与えることで子育てが始まった。ここまではすべて子供は生まれた時から親と同じ餌を食べていたが、哺乳類になると乳を与えることにより生まれたばかりの子が餌をみつけて食べる必要がなくなった、なんて話が出てきます。

精子というのは受精のためのDNAと卵子にたどりつくために必要最小限のエネルギーしか持っていないので、射精した後はあまり長くは生きられないと思っていましたが、それはどうも哺乳類だけの話のようで、鳥類では卵管に精子に栄養を供給する機構があって、そこまでたどり着いた精子は2週間程度生きていける。爬虫類では精子はメスの体内で1~数年生き続けられる、なんて話もあります。

とまれ生き物というのは、何ともはやいろんな仕組みで生きているものだなと思います。
この本はそのような面白い話が満載です。

このあたりの話に興味のある人にはお勧めです。

パブコメ

2月 9th, 2023

金融庁の少額短期保険業者向け監督指針が改正されることになり、現在パブコメの手続きに入っています。

私はもう実質的に引退しているようなものですが、それでも細々と少短業者の保険計理人も務めているため一応念のためにこの監督指針の改正案を見てみました。

その内容については興味がある方は直接検索して見てもらうことにして、私としては少短の基本的あり様を変えてしまうような改正かなと感じ、久しぶりにパブコメに意見を送付しようと思いました。

で、とりあえず原稿を完成させ送付する段階で、今まではすべて郵送していたのですが、せっかくネットで送る方法を用意してくれているので、今回はネットで送信することをトライしてみることにしました。

で、とりあえず送信用フォームに入力を済ませ、送信の前の手順で確認ボタンを押しました。すると何と『機種依存文字を使うことはできません』とエラー表示されてしまいました。と言ってどの文字が機種依存文字でエラーの原因になっているのか、という表示はどこにもありません。

仕方ないので前のように印刷して郵送しようかとも思ったのですが、せっかくなので取り敢えず何とかネット送信できるようにしてみようと思いました。で、ネットで調べてみると機種依存文字をチックしてくれるサイトがいくつもありました。で、そこに入力して機種依存文字をチェックしてみた所、赤で表字されたのがローマ数字のⅡ・Ⅲ・Ⅳ・・・と、丸文字の①・②・⑤のようなものです。でローマ数字は単なるアルファベットを重ねたII, III, IVに変え、①②⑤は丸1・丸2・丸5と変えて再度チェックしたら、今度は『機種依存文字なし』ということになりました。

そこで今度こそ、と思って再度パブコメシステムに戻って送信をしようとしたら、まだ『機種依存文字を使うことはできません』エラーで送信できません。とは言えどの文字がエラーになっているのか分からないので、仕方なく金融庁に電話することにしました。で、金融庁ではどうにもならなくてパブコメ全般を管理しているe-Govの方に電話するように言われてしまいました。e-Govの担当者とも色々話をした後でe-Govの中の『入力可能な文字について』のページを紹介して貰いました。そのページに載っている『パブリックコメントで使用できない文字の例』のリストを見てみると、どうも『―』が怪しそうだな、と思いました。『―』は計算式に入っている『+-』として使っているものと、節の番号たとえば『Ⅱ-3-4-2』なんて所に使われる『―』と、それが怪しそうだと思い立ちました。とはいえどちらも今回の改正案の新旧対照表に書いてあるのをそのまま切り貼りしているだけのものなのですが、とりあえず『+-』はすべて小文字の『+-』に書き直し、また節の番号の『-』もすべて小文字の『-』に変えてみました。それで今度こそと思ってパブコメのシステムから送信してみました。

何とこれがエラーなしで無事に送信することができました。
ヤレヤレ、メデタシメデタシです。