『ウニはすごいバッタもすごい』ー本川達雄

4月 11th, 2023

昨年末オフィスの年末の整理をしていたらひょっこり『生き物は円柱形』という本が出てきました。この本は会社を畳んで大宮に引っ越しをする時に、買って途中まで読んだ所でちょっと分からない所が出て来たので、友人が上京したら教えてもらおうと思って読むのを止めていた本で、その後コロナで友人が上京することができなくなったり、会社を閉めて神田のオフィスを閉めるときに引っ越し荷物にしまい込んだりしてそのままになっていた事を思い出しました。

この著者は昔『ゾウの時間ネズミの時間』という本を書いていて、この本が素晴らしかったのでこの『生き物は円柱形』という本をみつけ久しぶりに買ったのを思い出しました。で、改めてこの『生き物は円柱形』の本を始めから読み直してみたのですが、やはり面白く読めました。この本の最後の所に『ゾウの時間ネズミの時間』の話がもう少し整理された形で付いていました。

それでいつものようにイモヅル式を始めて、同じ著者の本を何冊か読んでみたのですが、この『ウニはすごいバッタもすごい』という本が何と言っても一番面白かったので紹介します。

この本は動物の分類上の

刺胞動物:サンゴ・イソギンチャク・クラゲの仲間
節足動物:三葉虫・エビ・カニ・フジツボ・昆虫・ムカデ・カブトガニ
     ・クモ・サソリの仲間
軟体動物:巻貝・二枚貝・オウムガイ・タコ・イカの仲間
棘皮生物:ウニ・ヒトデ・ナマコの仲間
脊索動物:ナメクジウオ・ホヤの仲間
脊椎動物:魚類・両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類

のそれぞれについて、身体の仕組・動くあるいは動かない仕組・餌を食べる仕組・呼吸の仕組を説明しています。棘皮生物については著者の専門分野だけに、他の動物がそれぞれ1章なのにこれだけ2章にわたって詳しく説明しています。

これを1つ1つ読んでいくと、動物というのは本当に様々な生き方をしていて、そのための仕組を使っているんだなあと思います。ともすると脊椎動物・哺乳類が一番進んだ仕組を持った高度な生物だと思いがちですが、そうではなくそれぞれの環境それぞれの生き方に応じてそれぞれの動物がそれぞれ独自の高度に進んだ仕組を持って生きているんだ、という事が良く分かります。

とにかく面白い本です。お勧めします。

Maxwellの『電磁気学』

3月 21st, 2023

かなり前からファイマンの物理学Ⅲ卷の電磁気学を読んでいるのですが、何とも心もとない感じです。説明を読み数式を追うことはできるのですが、どうしても『だから何』という感がぬぐえません。Ⅰ卷の『力学』の時にはこんなことはなかったのですが。

この本の第2章の最初に
『数学者や非常に数学的な心を持つ人は物理を“勉強”する時に迷ってしまうが、それは物理学を見失うからである』
『彼らは言う。“いいですか、これらの微分方程式-マクスウェル方程式-は電磁気学のすべてです。方程式に含まれていないものは何もないと物理学者は言います。なるほど方程式は複雑ですが、要するに数学的な等式に過ぎません。したがって方程式を数学的に理解し尽くせば物理学を理解することになる筈です。” 残念なことにそうはいかない・・・現実の世界の物理的状態は非常に複雑であるので、方程式のもっと深い理解が必要となる。・・・物理的な理解は全く非数学的、不確実で不正確なものであるが、物理学者にとって絶対に必要である。』

と書いてあります。もちろん私は数学者でもないし、非常に数学的な心を持っているわけでもありませんが、この物理学を『見失』なっているというのはそうかも知れないと思っています。いずれにしても物理的な理解がないことは確かそうです。
この部分、この本の最初のほうに書いてあるので、その時はそれほど気にせずに読み進めたのですが、読み進むうちにやっぱりそうだな、と思うようになりました。

苦し紛れにファイマンの本以外の本もいろいろつまみ食いしてみたのですが、この見失っている物理学の姿がなかなか見えて来ません。で、ついにこれはMaxwellの本を読んでみるしかないか、と思うに至りました。

Maxwell の電磁気学の本は『A TREATISE ON ELECTRICITY AND MAGNETISM』というタイトルで、日本語訳の本もありそうなのです(そう思っていたのですが、どうもこれはこの本の訳ではなく、Maxwellがマクスウェルの方程式を最初に発表した論文のほうの訳のようです)が、分からなくなった時に原文がわからないのか訳が分からないのか悩むのも面倒なので、この際英語だから何とかなるかも知れないと思い探してみました。ネットで検索するとこの本のpdf版がいくらでもあるので、これを印刷してしまえば良いんだと思いました。この本はⅠとⅡの2巻本で、どちらも500頁位です。幸いオフィスには会社時代使っていたレーザープリンターもまだあるし、ということで、まずⅠの方を印刷し、それでやめておこうかとも思ったのですが、この際ついでにという事でⅡの方も印刷してしまいました。まあ1日10頁読めば50日で1巻読めるので、半年もあればうまく行けばⅠⅡ卷とも読める、というトラヌタヌキの計算です。

電磁気学のマクスウェルの方程式はベクトル表現が使われていないので、今は4つの方程式になるものが20個もの方程式になっている、なんて話もあるので、そこらへんも確認してみようと思っていたら、何の事はない、本全体がPart ⅠからPart IVまでの4部構成の、その前にPreliminaryとしてベクトルの話がきちんと説明してあり、ストークスの定理・ガウスの定理などもちゃんと書いてあります。

またいろんな単位と次元の話もきちんと説明されています。前書きの最後の日付を見ると1873年2月1日となっていて、この本が書かれたのがちょうど150年前、フランスではもうメートル法が制定され、メートル原器も作られていて、イギリスではヤード・ポンド法でその原器も作られていて、国によって単位が違っても間違わないようにするために長さ・質料・時間の次元をL,M,Tで表して、常に単位と数量をはっきりさせるなんて話もきちんと書いてあります。

この時代、ハミルトンが四元数を発明(発見)していろいろ研究していた時代で、ベクトルの説明でも四元数を使ってスカラーと三次元ベクトルを統一的に扱うやり方もきちんと説明しています。残念ながら今では普通の数学の本でも物理の本でも、この四元数を使ってスカラーとベクトルを統一的に扱うということをきちんと書いてある本は殆どなくなってしまっているようです。

で、電磁気学の本ですから線積分や面積分の話が出てきて、面の向きを決めるという話になるのですが、ここで右ネジ(我々が普通に使う、右に回すと前に進むという形のネジやボルトのことです)の話が出てきて、注釈に、『今では文明国ではすべての国でこのネジの方向で統一されているけれど、文明国の中では日本だけが例外だ』ということが書いてあり、びっくりしました。150年前というのは明治維新のすぐあとの話で、この時すでに日本は文明国として認知されていたんだ、という事と、日本のネジの向きのことまでマクスウェルはどうして知っていたんだろう、なんて、不思議な話です。

このあたり、日本におけるネジの向きに関することについて、知っている人がいたら教えて下さい。

とまれもうすでにトラヌタヌキの計算は破綻して予定通り進んでいないのですが、新しい発見がいろいろあり(たとえば今はdivergence《発散》と言っているものを、この本ではマイナスを付けてconvergence《収束》と言って使っています。4元数をベースにした考え方では、ベクトルとベクトルの4元数としての積は、スカラー成分がベクトルの直積(内積)のマイナス、ベクトル成分がベクトルの外積となります。)、面白く読めそうです。

で、この本でもMaxwellは、物理学のイメージをしっかりつかむために、この本を読み終わったら是非ともファラデーの論文を読むように勧めています。多分ファラデーの論文というのはいくつもの論文に分かれていて、一つ一つは面白いと思うのですが、全体を通してまとめられているわけでもなさそうなので、やはりまずはこの本を読み、無事読み終わったらファラデーの方も読んでみようか、と思います。何年かかることかわかりませんが。

もし興味がある方がいたら読んでみて下さい。

『中東問題再考』-飯山 陽(イイヤマ アカリ)

2月 24th, 2023

かなり待たされましたが、図書館に同時に予約した飯山さんの本のうち、最後のものが来ました。

これはすごい本です。実名をあげて次から次に中東問題の『専門家』『メディア』『コメンテーター』の嘘を具体的に示しています。『誰それは、これこれの本でこう言ってますが、嘘です。』といった具合です。それにしてもそこに挙げられる人の名前がホントにいくらでも次から次に出てくるのには、呆れ果ててしまいます。

一度にこれだけ大勢の人を敵に回してしまうわけですから、その人々から一斉に攻撃されるのも仕方のないことです。とは言え、イスラム原理主義のテロリストの頭目のようなイスラム法学者にテレビでインタビューして、悪魔を見るような目で見られながら話をした著者にしてみれば、そんな有象無象は怖くも何ともない、という事でしょうか。

著者は『はじめに』で、中東問題を分かりにくくしている原因を二つにまとめています。『第一の原因は中東問題が複雑だからだ』『第二の原因は中東問題についての日本のメディアの報道と、それについての「専門家」と称される人々の解説が偏向していて、嘘が多いからだ』と、最初から平然とストレートに指摘しています。

その後各論に移って、アフガニスタンのタリバン、イランの原理主義イスラム法学者達、トルコのエルドアン政権、とマスコミや専門家が『親日』ともてはやしている国々が、実際『親日』とはまるで違っていて、原理主義過激派がいかにそれぞれの国民を虐げているか解説しながら、いかにメディアや専門家が嘘をバラ撒いているか、具体的に誰がどこにこう書いた、どこでどのように言っていたか、具体的に解説しています。

次に『なぜイスラム諸国は中国のウイグル人迫害に声を上げないのか』として、それらの国々の支配者たちが、ウイグル人や自国民の事より、中国の一帯一路により自分達がどれだけ儲けるかの方を優先しようとしていることを明らかにしています。次のパレスチナの所で、パレスチナを支配している過激テロリスト達がいかに住民を抑圧搾取して自分たちだけ贅沢をしているか、欧米・日本からの援助はすればするだけそのテロリスト達を豊かにして、パレスチナの住民を苦しめることになるか明らかにし、ここでもメディアや専門家は自分達の反米・反日にとって具合の悪いことについて目もくれず何も言わない、ということを明らかにしています。

一つ一つ指摘されていることは、その時々に多少とも報道されることも多いのですが、気を付けていないとメディアや専門家の曲解・意図的な嘘の報道でともすればかき消されてしまうような状況で、この本のように丁寧にまとめてくれると理解しやすくなります。

多くの国で過激派原理主義者やテロリスト達が、国民や住民を人質にとって反米・世界征服を企てている現状を、どのように解決することができるのかは分かりませんが、とりあえず現状がどうなっているか、という事だけでも正しく認識しておくことが大事だと思います。

恐い話が次々に出てきますので誰にでもお勧めというわけにはいきませんが、中東問題をちゃんと理解したい人、マスコミや専門家達に騙されたくない人、飯山陽という人がいかに危ない戦いをしている人か知りたい人にお勧めです。

『哺乳類誕生-乳の獲得と進化の謎』―酒井仙吉

2月 20th, 2023

植物の話が続いたので、今度は動物の哺乳類の話です。
著者は農学博士で専門は動物育種繁殖学、あるいは泌乳生理学、ホルモンによる調節機構ということで、哺乳動物の乳腺と泌乳のしくみについての部分がメインなんでしょうが、それだとあまりに専門的になってしまうからか、この本は3部構成で、第一部が進化と遺伝の話、第二部が動物が上陸してから哺乳類、人類にたどり着くまでの話。そして第三部で『進化の究極―乳腺と泌乳』で専門的な話を展開しています。

私も今まで哺乳類に関する本はいくつも読んだことがありますが、『哺乳に関する本』というのは初めて見たので面白そうだと思って借りてみました。もちろんこの本も稲垣さんの本からの芋づるの結果、たどり着いたものです。

第三部はさすがに専門家だけあって付いていくのが大変ですが、たとえば母乳は胃に入るといったん固まって、その結果赤ちゃんは満腹感を感じて眠る。そしてその固まりは少しずつ消化されるなんて話もあって面白い部分もあるのですが、むしろ第一部・第二部の方がわかりやすく楽しめました。

まず第一部、進化と遺伝の話ですが、ここで私は今までまるっきり思い違いをしていたことに気がつきました。
『進化』というのは遺伝子が突然変異してその変異が広まることによって起こるわけですが、この『突然変異』という言葉から何となく、滅多に起きない変化がある日どこかで突然起きて、それによって生物の生き様が変わってしまう、という位のイメージでした。

しかし有性生殖、というのは、メスとオスが減数分裂によって遺伝子を半分にし、その半分になった精子と卵子が接合して受精卵になるプロセスです。たとえばヒトでは遺伝子が23対46本の染色体にまとまっていて、それぞれの対は母親の卵子から来ているものと、父親の精子から来ているものが23対の何番目かという順番ごとに組み合わさったもので、減数分裂というのはそのそれぞれ何番目の対が倍になって4本の染色体になり、そこから4つに分かれて1本の染色体になり、計23本の染色体を持つ精子、23本の染色体を持つ卵子が一緒になって、23対46本の染色体の受精卵になるということです。

ここで減数分裂の際、23対の染色体のうち母親由来の方を選ぶのか、父親由来の方を選ぶかはどちらもありということです。だとすると23対の染色体から23本の染色体を選ぶ組み合わせは2の23乗、すなわち8百万通りの組合せということになります。精子の方の組合せが8百万通り、卵子の方の組合せが8百万通りですから、受精卵の方は8百万×8百万=64兆の組合わせということになります。

今地上の人類の総数が70億人とか80億人ということになっていますので、1人の父親・1人の母親から生まれる受精卵の染色体の組合せの数が64兆ということは、人類の数の1万倍ということになります。何ともビックリするような話です。もちろんこれは理論的に可能な組み合わせの数、ということで実際に64兆の受精卵ができる、という話ではありませんが。

このような話、このような数字を具体的に知ると『突然変異』というもののイメージもまるで違ってきます。即ちそれは、いつでもどこでもいたる所で起こっている変異だけれど、それがいつどこでどのような変異が起こるかは分からないという事です。

この精子・卵子の染色体の8百万通りの組合せ、受精卵の64兆通りの組合わせというのはごく正常な減数分裂と接合の結果ですから、これにさらに様々なエラー、組み替え、突然変異が加わるとさらにとんでもないことになります。

DNAというのは一般にタンパク質を作るための設計図だと説明されていますが、実はそれだけじゃなく、その設計図をいつコピーに回してタンパク質を作るかというコントロールの部分もあって、どの設計図をいつタンパク質製造に使うかによって、その生物の生き様が変わってくるということのようです。

染色体が23対あるという事は、それぞれの対の一方がちゃんと機能するのであればもう一方は突然変異で機能しなくなっていたとしても、そっちの方の設計図を使わないことにすれば生きていくのに問題ない。そのため使わない染色体の方に機能しない突然変異が次々に積み重なっても大丈夫だ。そしてある時今まで使わなかった方の設計図を使うような変異が生じた時、今までと違った生物が生まれるという話です。

さらに、遺伝子は今まで全ゲノム重複という、一度に全体が2倍になる、という変異を2回にわたって経験しており、この倍化によって付け加わった余分な遺伝子が様々に変異して様々な機能を獲得する、という話もあります。

何とも壮大な話で、それが常時いたる所で起こっているというのは、何とも呆れ果てる話です。

第二部の方は、魚類が上陸して両生類、そして爬虫類・恐竜・鳥類・哺乳類に進化していった筋書きがまとまっています。

たとえば魚類はメスが水中に卵を産んで、そこにオスが精子をかけて受精させる。両生類も基本的にそれと同じだったので水を離れることができなかった。爬虫類になると体内受精になったので、受精した後で卵に殻をかぶせて産むことにより陸上で卵を産むことができるようになった。鳥類ではさらに卵からかえったヒナに親が餌を与えることで子育てが始まった。ここまではすべて子供は生まれた時から親と同じ餌を食べていたが、哺乳類になると乳を与えることにより生まれたばかりの子が餌をみつけて食べる必要がなくなった、なんて話が出てきます。

精子というのは受精のためのDNAと卵子にたどりつくために必要最小限のエネルギーしか持っていないので、射精した後はあまり長くは生きられないと思っていましたが、それはどうも哺乳類だけの話のようで、鳥類では卵管に精子に栄養を供給する機構があって、そこまでたどり着いた精子は2週間程度生きていける。爬虫類では精子はメスの体内で1~数年生き続けられる、なんて話もあります。

とまれ生き物というのは、何ともはやいろんな仕組みで生きているものだなと思います。
この本はそのような面白い話が満載です。

このあたりの話に興味のある人にはお勧めです。

パブコメ

2月 9th, 2023

金融庁の少額短期保険業者向け監督指針が改正されることになり、現在パブコメの手続きに入っています。

私はもう実質的に引退しているようなものですが、それでも細々と少短業者の保険計理人も務めているため一応念のためにこの監督指針の改正案を見てみました。

その内容については興味がある方は直接検索して見てもらうことにして、私としては少短の基本的あり様を変えてしまうような改正かなと感じ、久しぶりにパブコメに意見を送付しようと思いました。

で、とりあえず原稿を完成させ送付する段階で、今まではすべて郵送していたのですが、せっかくネットで送る方法を用意してくれているので、今回はネットで送信することをトライしてみることにしました。

で、とりあえず送信用フォームに入力を済ませ、送信の前の手順で確認ボタンを押しました。すると何と『機種依存文字を使うことはできません』とエラー表示されてしまいました。と言ってどの文字が機種依存文字でエラーの原因になっているのか、という表示はどこにもありません。

仕方ないので前のように印刷して郵送しようかとも思ったのですが、せっかくなので取り敢えず何とかネット送信できるようにしてみようと思いました。で、ネットで調べてみると機種依存文字をチックしてくれるサイトがいくつもありました。で、そこに入力して機種依存文字をチェックしてみた所、赤で表字されたのがローマ数字のⅡ・Ⅲ・Ⅳ・・・と、丸文字の①・②・⑤のようなものです。でローマ数字は単なるアルファベットを重ねたII, III, IVに変え、①②⑤は丸1・丸2・丸5と変えて再度チェックしたら、今度は『機種依存文字なし』ということになりました。

そこで今度こそ、と思って再度パブコメシステムに戻って送信をしようとしたら、まだ『機種依存文字を使うことはできません』エラーで送信できません。とは言えどの文字がエラーになっているのか分からないので、仕方なく金融庁に電話することにしました。で、金融庁ではどうにもならなくてパブコメ全般を管理しているe-Govの方に電話するように言われてしまいました。e-Govの担当者とも色々話をした後でe-Govの中の『入力可能な文字について』のページを紹介して貰いました。そのページに載っている『パブリックコメントで使用できない文字の例』のリストを見てみると、どうも『―』が怪しそうだな、と思いました。『―』は計算式に入っている『+-』として使っているものと、節の番号たとえば『Ⅱ-3-4-2』なんて所に使われる『―』と、それが怪しそうだと思い立ちました。とはいえどちらも今回の改正案の新旧対照表に書いてあるのをそのまま切り貼りしているだけのものなのですが、とりあえず『+-』はすべて小文字の『+-』に書き直し、また節の番号の『-』もすべて小文字の『-』に変えてみました。それで今度こそと思ってパブコメのシステムから送信してみました。

何とこれがエラーなしで無事に送信することができました。
ヤレヤレ、メデタシメデタシです。

『イネという不思議な植物』―稲垣栄洋

2月 2nd, 2023

稲垣さんのほん、3冊目はこの本です。
この本はイネとイネ科の植物を中心にいろんな話題を紹介しています。

まずはモチ米とウルチ米の違いですが、モチ米はウルチ米の一つの遺伝子が突然変異を起こして誕生したもので、その遺伝子は劣性遺伝子なので放っておくとすぐにウルチ米になってしまうのですが、人類が丁寧にその劣性遺伝子のホモの種子を大切に保存してきたものだ、という話です。

モチ米とウルチ米の違いは、種子のうちの胚乳にあたる部分のデンプンの組織がちょっとだけ違うということで、ウルチ米にはアミロースとアミロペクチンという2種類のデンプンを含んでいるのに対し、モチ米はアミロペクチンのみだということ、この違いによりモチ米のモチモチ感が生じているということ、そのため、ウルチ米はこの2種類を含んでいるのでその割合をうまく塩梅すれば、もちもちのお米もさらっとしたお米も作り分けることができる、というわけです。

ここでモチ米のめしべにウルチ米の花粉を受精させたらどうなるのかという問題になります。

イネの種子は『胚芽』という受精卵の部分と、『胚乳』という胚芽が芽を出し発育するための栄養を蓄えた部分から成ります。私達が食べるお米はほとんどが胚乳です。胚乳がめしべと同じ親の細胞からできていれば、モチ米からウルチ米かは親と同じになります。また胚乳が胚芽と同じ細胞からできていれば、子と同じになります。

ところが実はそのどちらも違っている、というのが正解のようです。

胚芽は受精卵、卵子と精子が一緒になったものです。
胚乳の方は卵子ができる過程で減数分解した細胞が、さらに何回か(イネの場合は3回)分裂してできる8個の核のうち1個は卵子になり、残りのうち2つが合体した中心体というものと、オシベから出てくる精子のうち一方が卵子と一緒になり受精卵となり、もう一つがこの中心体と一緒になり3倍体になったものが胚乳になるということで、このように胚芽の受精と胚乳の受精があるということで、『重複受精』と呼ばれるということです。

胚芽の方は減数分裂した結果の卵子と減数分裂した精子が一緒になるので2倍体ですが、胚乳の方は中心体の方の減数分裂した結果2つ分の中心体と精子の方の1つ分が一緒になるので3倍体になる。その結果ウルチ米とモチ米が受精したものが餅のようになるかどうかは普通の遺伝の計算とは違ってくるようです。

通常胚乳が親と同じか子と同じかなんてことは考えもしないのですが、稲の場合はその胚乳を食べることになるので、それが大きな問題となるようです。

ということで、モチ米にウルチ米の花粉が付くと、できる米はウルチ米になってしまうという事です。

この重複受精、この本では『教科書で習った』と書いてあるのですが、こんな話聞いたことがあるかなと思って考えてみたら、私は高校の時大学受験は理科で受ける予定だったので、物理と化学を選択することにしたこと、生物の授業はあったけれど担当の先生が教科書無視で、その当時最先端だった分子生物学の話ばかり熱く語っていたことなど思い出しました。その結果、教科書に何が書いてあったか、ほとんど記憶がありません。お陰で今更ながらいろんな話をびっくりして楽しめています。
それにしてもこの胚乳については植物の種類によって様々のバリエーションがあって、植物ってのは何ともとんでもない生き物だなと思います。

イネ科の植物は動物に食べられないように、葉を消化しづらく、消化しても栄養が少ないようになっています。しかしながら野原の草のほとんどはイネ科の植物で、これを食べるため、牛の類は胃をいくつも用意し反芻して消化するようになっており、馬の類は盲腸を発達させて盲腸の中の微生物を使ってセルロース分解するようになっている、ということです。

また米が皮が剥きやすいので精米して粒のまま食べる。コムギは皮が剥きにくいので粉にしてから皮を取り除いて食べる。オオムギは固くて粉にすることもできないので水に漬けて発芽させてビールにする。ただしオオムギの変種のハダカムギは皮が剝きやすいので粒のまま食べる、我々が麦飯として食べているのはこれだ、なんて話もあります。

イネは雑草の一種として何が何でも種子を作るために、裸子植物から被子植物になる過程で獲得した虫媒花というやり方をやめ、改めて風媒花に進化したとか、遺伝上宜しくないので排除してきた自家受粉も平気で活用しているとかの話もあります。

この本ではイネや米を中心とする文化や歴史の話もふんだんに盛り込まれており、たとえば一人1食分の米の量が1合であり、1日3食で3合、これを作るのに必要な田んぼの面積が1坪、1年分1000合分の米を作る田んぼの面積が1反で、その米の量が一石、だから100万石というのは100万人の1年分の米がとれるということだ、とか、一石の米の値段として一両ときめたとか、体積も面積も貨幣もすべて米が基準になっているなんて話も面白いです。

15世紀のヨーロッパでは撒いたコムギの種子の3~5倍しか収穫できなかったけれど、15世紀の日本では撒いた米の20~30倍の収量が得られた。そのためヨーロッパでは小麦の不足分を家畜あるいは狩猟による肉食で賄わなければならなかったとか、イネやムギが作物となる以前はイネ科の草をまず家畜に食べさせ、それを人間が食べるため畜産業が最初に始まり、その後稲や麦が栽培できるようになって農業が始まったなど、縦横無尽に話題が広がります。

良くもまあこれだけの話題が次から次に出てくるものだなあと感心してしまいます。
お勧めします。

『雑草はなぜそこに生えているのか』ー稲垣栄洋

1月 31st, 2023

稲垣さんのちくまプライマリー新書の2冊目はこの雑草の本です。
この本を読んで、なるほど雑草こそ植物の進化の頂点にある存在だな、と納得しました。

著者の稲垣さんは専攻を『雑草生態学』というくらいあって『へー』と驚く話が満載です。しかもこの雑草というのがとんでもない融通無碍の生物で、普通の植物の常識を平気で覆しているという話がいくつも紹介されています。

まず雑草は大量の種子をバラ撒くことが特徴で、イギリスのコムギ畑の調査で、1平方メートルあたりの土の中に雑草の種子が75,000粒あったということで、この種子が一斉に開花するのであれば駆除するのも簡単なのですが、これがてんでんばらばらに好き勝手のタイミングで開花するので、『取っても取っても生えてくる』ということになります。

またゴルフ場に生える『スズメノカタビラ』という雑草では、ゴルフ場の芝の刈り揃える高さに応じ、その高さよりちょっと低い高さで穂を出す、という話があります。それぞれの場所で種子を取り、それを育ててみると、まわりに芝がないにも関わらず、あった芝の高さよりちょっと低い所まで育つようになっている。即ちそのように遺伝的に変異しているということです。

かと思えば、同じ植物が環境に応じて高さ数センチになったり数メートルになったり自由自在に生育する、それどころか開花時期も春のはずのものが秋に咲いたり、越年生の草が平気で一年生の草になったりしているようです。

『雑草とは何か』という定義の所で
不良環境下でも種子を残し、好適環境下では種子を多産する
というのがあるそうで、また
雑草は未だにその価値を見出されていない植物である。
というのも、イネやムギ等も、もともと雑草だったものが人の手で選択・改良されていったものだという事から良く分かります。

よく『雑草は踏まれても踏まれても立ち上がる』なんて言葉が言われたりしますが、これは間違いで、実際は雑草はそんな無駄なことはしない。立ち上がるなんて余計なことはしないで『雑草は踏まれても踏まれても必ず花を咲かせ、種子を残す』ということだという事で、納得です。

最後に著者自身による略歴が付いています。専攻は雑草生態学となっているけれど、大学を卒業するときに雑草学の研究室ができたので、せっかく決まっていた留学の話をドタキャンして大学院に進学し、大学院を出てから農林水産省・静岡県農林技術研究所等で働いて、雑草そのものの研究はしてこなかったけれど、それがすべて雑草研究に役立っているというのは面白い話です。

中高生向きに書かれていて、読みやすい本です。
お勧めします。

『朝日新聞』

1月 18th, 2023

昨年の年末に自宅の固定電話に電話がかかってきました。たまたま私が出た所、朝日新聞からの電話でした。

何だろう、と思いつつどうせ暇なので話を聞いてみたら新聞の勧誘です。とはいえ普通の勧誘とはちょっと違って、何日か無料で配達するのでそれを見て、もし良かったら購読して下さいということでした。

紙の新聞も読むことはなくなっているし、特に朝日新聞は何年も見ていないので、とりあえずタダなら良いやと思ってこの話に乗ることにしたら、正月の3日から7日までの5日間、朝日新聞の朝刊が自宅に配達されました。さすがに大部の元旦号は配達はしないようです。

私は昔、親と同居していた時は父親は典型的な朝日・岩波・NHKだったので、新聞は朝日と決まっていました。とは言え、特に社会問題に興味はなかったので、見るのは4コマ漫画・新聞小説・囲碁将棋欄、そしてテレビ・ラジオ欄をちょっと見るだけでした。学生の時名古屋住まいをしていた時には地元なので仕方なく中日新聞を取っていました。

名古屋から戻って社会人になり、新入社員研修で講師をした先輩社員から『日経新聞を読め』と言われて早速4月1日に遡って配達してもらい、それ以来40年くらいは毎日読んでいました。

結婚して奥さんに『近所の情報が必要だから折り込み広告が入る一般の新聞を取ってくれ』と言われて、朝日・読売等を取ったこともあり、また日経も本紙だけでなく、日経金融新聞や日経産業新聞も併せて購読していたこともありました。

その後日経新聞本紙のみになり、それも会社をたたむ時にやめました。

保険会社にいた時は会社で一般紙も取っていて、時々は見る機会もあったので、それを見て、特に朝日新聞の社説があまりにも非論理的なので、『受験生の息子には朝日新聞の社説を読ませている』という社長に対し、『朝日の社説を読むと頭がバカになるからやめた方が良い』とアドバイスしていました。

その頃でも日経新聞の記事が事実の報道が3割~5割位なのに対し、朝日新聞の記事は事実の報道が1割位だと思っていたのが、日経新聞がどんどん朝日新聞のようになっていくので、もう新聞は読む価値がないな、と思ってやめました。

その後朝日新聞がどうなっているか、という興味もあったので無料の配達をしてもらいました。

で、3日に配達された新聞を見て、あまりにスカスカなので呆れ果てました。まぁ正月なので、紙面を作るのも手抜きをした、ということかも知れませんが、読む所はまるでありません。特に3日と4日は1面のトップにストーリーテリングというんでしょうか、誰誰さんがどうしたこうしたという、実名だか仮名だか匿名だか分からない名前で特定の個人の物語を延々と書いたあと、それに対するコメントの形でウンチクをたれる・・という記事が出ていました。

別に一刻を争うような記事でもなく、いつ出しても良いような記事をあらかじめ書き溜めておいて、これを載せれば記者さんはゆっくり正月休みを楽しめるということでしょうか。

4日の一面に載ったのは飯山あかりさんもYouTubeでこきおろしていましたが、新興宗教にはまった両親のために苦労した娘が、今度はイスラム教徒と知り合ってイスラム教徒になってしまって、心の平安がもたらされてヨカッタヨカッタ、という記事です。

このような物語が一面のほぼ全体を占めている、というのは、もう新聞は報道機関である、という建前まで捨ててしまったかのようです。

このストーリーテリングの手法、私にとっては作り物の物語で何の価値もないとしか思えないのですが、朝日新聞の情報の記者さんたちはセンチメンタルな物語を作ってカッコイイと思っているんでしょうね。

3日・4日は、2日・3日に行われた箱根駅伝の話でかなり紙面が潰せます。7日の土曜日は毎日のテレビ・ラジオ欄で使う2頁のほか、週刊テレビ欄ということで丸々3頁使っています。

正月の名残で他の全面広告もかなりたくさん入っていて、大体毎日30頁くらいの紙面の3分の1は全面広告です。呆れ果てえるばかりのテイタラクです。

7日の夕方また電話がかってきて、『無料配達した新聞は見てもらいましたか、取ってみようという気になりましたか』と聞かれ、『思った通り価値がない事がわかった。5日間有難う。』と答えて一件落着です。

『植物はなぜ動かないのか』-稲垣 栄洋

12月 27th, 2022

この本は図書館のおすすめのコーナーにあったもので、テーマは『人間と植物』というようなものでした。

ちくまプライマリー新書の中の一冊で、主として中高生を対象として書いてあるので読みやすい本です。

名前の最初の「稲」に関係があるのか、著者は農学博士で、専門は雑草生態学ということです。とはいえ植物・動物全般について良く知っていて、わかりやすく説明してくれています。

植物は動かないということで、その前提で様々な進化をし、動物は動くという事で様々な進化をし、動物は植物をエサとしそれに合わせて進化し、植物は動物に食べられるという事を前提にそれを妨害したり利用したりする形で進化したという物語が面白く語られています。

地球が生まれて46億年、生命が生まれて38億年ですが、その後4億7千年前に植物が上陸し、魚類が上陸してその後両生類・爬虫類・恐竜・鳥類・哺乳類に進化していったのが3億6千年前、その植物・動物の上陸後お互いに影響を与えながら進化し、植物はコケ類からシダ類・裸子植物・被子植物、そして草に至り、その草の代表がイネおよびイネ科の植物だ、というような話です。

今まで生物の歴史とか動物の歴史については何度も読んでいますが、『上陸』というきっかけで『上陸後』という視点で見たことがなかったので面白かったです。

この人は多くの本を書いている人で、同じちくまプライマリー新書の中でも『雑草はなぜそこに生えているのか』『イネという不思議な植物』という本も書いています。『イネという不思議な植物』という本ではいわゆる穀物といわれる米・麦・トウモロコシがすべてイネ科の植物で、それ以来でもササ・竹・ヤシなどもイネ科の植物なんだ、馬や牛が野原で食べている草もほとんどがイネ科の植物なんだ、なんて話も書いてありました。

またファーブル昆虫記というのは有名だけれど、実はファーブル植物記というのもあって面白いというようなことも知りました。

イモヅル式読書はいつまで行っても終わりそうもありません。

『国家安全保障戦略』

12月 27th, 2022

いわゆる安保3文書というのは『国家安全保障戦略』『国家防衛戦略』『防衛力整備計画』の3つですが、これに『国家安全保障戦略(概略)』と『国家防衛戦略(概略)』という2つのプレゼン資料が付いています。

何かと話題なので読んでみました。プレゼン資料は、分かっている人が誰かに説明するための資料のようで、これから先に読もうとしても良くわかりません。また3つの文書はそれぞれA4で30頁くらいあるので、まずは『国家安全保障戦略』から読んでみました。この『国家安全保障戦略』のもとで『国家防衛戦略』があり、それに従って『防衛力整備計画』があるというたてつけなので、まずは総論の『国家安全保障戦略』から、ということです。

読んでみて驚くような記述が多数あり、これは私が今まで知らなかっただけの事なのか、今回変わったのか確かめるため、今回の『国家安全保障戦略』の前の平成25年(2013年)の『国家安全保障戦略』も読み、また日本語の意味を明確にするために今回の『国家安全保障戦略』の英字版(National Security Strategy of Japan)も見る事になってしまいました。

で、今回の『国家安全保障戦略』ですが、明確になっているのは、従来の国連中心主義、国連の下で優等生であろうという姿勢をやめて、その代わりに二国間、多国間の協力により世界平和を進めていく方向性をはっきり打ち出して、覚悟と責任感を持って世界をリードしていこうとしている姿勢になっている、という事です。

この段階で、それじゃあ今までの『国家安全保障戦略』はどうだったんだろうと見てみると、ここでは国連中心主義が明確に書かれています。すなわち今回の文書で明確に国連を見限ったということです。

もちろん今回の文書でも国連改革を進める、という方針も書かれていますが、もはや国連だけに頼り切っているわけにはいかない、ということです。安保理の常任理事国であるロシアがウクライナに侵攻し、明確に国連憲章に違反しているというのもちょうどタイミングが良かったのかも知れません。

従来の文書では北朝鮮だけが明確に非難されていたのが、今回の文書では北朝鮮・中国・ロシアが明確に非難されています。

前回の文書ではアラブ原理主義勢力を念頭に、『非国家主体によるテロや犯罪(5~6頁)』というのが大きなリスクとされていますが、今回の文書では『他国の国益を減ずる形で自国の国益を増大させることも排除しない一部国家が、軍事的・非軍事的な力を通じて自国の勢力を拡大し、一方的な現状変更を試み国際秩序に挑戦する動きを加速させている(6頁)』と記載し、ロシア・中国がリスクだとしています。具体的に『他国の債務持続性を無視した形での借款の供与等を行うことで他国に経済的な威圧を加え、自国の勢力拡大を図っている(7頁)』とか『一部の国家が他国の民間企業や大学等が開発した先端技術に関する情報を不法に窃取した上で自国の軍事目的に活用している。(7頁)』など、国名は明記していなくても誰が読んでも中国のことだと分かるような書き方をしています。

インド太平洋地域について『核兵器を含む大規模な軍事力を有し、普遍的価値やそれに基づく政治・経済体制を共有しない国家や地域が複数存在する(8頁)』とか『中国はロシアとの戦略的な連携を強化し、国際秩序への挑戦を試みている(8~9頁)』とまであからさまに記述しています。

日本が協力する国々を表現する『同盟国・同志国等』という、多分今まで聞いたことのない言葉が出てきたので、英文の方で見てみると『 ally, like-minded countries and others』 となっていました。

もう国連中心ではなく同盟国・同志国たちと一緒にやっていくのだ、という意思を表現したものです。

従来ともすれば曖昧なままにされていた『国益(5頁)』とか『国力(11頁)』という言葉を正面から使っているのもびっくりです。

安全保障に関する基本的な原則の中で『我が国を守る一義的な責任は我が国にある(5~6頁)』という言わば当たり前のことを当たり前に明記しているのも新鮮です。

『国力』の主な要素として『第一に外交力である。(中略)大幅に強化される外交の実施体制の下、・・・(11頁)』『第二に防衛力である。(中略)抜本的に強化される防衛力は、・・・(11頁)』として外交力と防衛力を大幅に強化する方針が示されています。

具体的な防衛力強化策としては『現存装備品を最大限有効に活用するため、稼働率向上や弾薬・燃料の確保、主要防衛施設の強靭化により防衛力の実効性を一層高めていくことを最優先課題として取組む(17頁)』としています。

またこの防衛力強化の中に『反撃能力を保有する(18頁)』と書かれ、これは『(憲法上、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるものだが)これまで政策判断として保有することとしてこなかった能力に当たるものである。(18頁)』として、今までとは違うぞと明らかにしています。とは言えこれは『専守防衛の考え方を変更するものではなく、(18頁)』として専守防衛の中で相手が攻撃しようとする場合にはしっかりと反撃するんだという姿勢を示しています。それも、もはや敵基地だけ攻撃しても相手の攻撃を防ぐことにはならないので、『反撃能力』として、より広い目標に対して攻撃する意思を明らかにしています。

この防衛力の強化に関しては『我が国の防衛力の抜本的強化は速やかに実現していく必要がある。具体的には本戦略策定から5年後の2027年までに我が国への侵攻が生起する場合には、我が国が主たる責任をもって対処し、同盟国の支援を受けつつこれを阻止・排除できるように防衛力を強化する。さらにおおむね10年後までにより早期かつ遠方で我が国への侵攻を阻止・排除できるように防衛力を強化する(19頁)』と覚悟のほどを語っています。

そしてそのような『自衛隊の体制整備や防衛に関する施策はかつてない規模と内容を伴うものである。(19頁)』と明らかにしています。

そして『我が国の防衛生産・技術基盤はいわば防衛力そのものと位置づけられるものであることから、その強化は必要不可欠である。(19頁)』『力強く持続的な防衛産業を構築する(19頁)』『官民の先端技術研究の成果の防衛装備品の研究等への積極的な活用、新たな防衛装備品の研究開発のための態勢の強化等を進める。(20頁)』としています。

『サイバー安全保障分野での対応能力の向上』では、『国、重要インフラ等に対する安全保障上の懸念を生じさせる重大なサイバー攻撃について、可能な限り未然に攻撃者のサーバー等への侵入・無害化ができるように政府に対し必要な権限が付与されるようにする。(21-22頁)』とあり、ここでも、守るだけでなく、攻撃こそ最大の防御なりとの考え方が表明されています。積極的に攻撃する能力こそ積極的な防御であり、積極的な平和に向けての行動だ、ということでしょうか。

そして『技術力の向上と研究開発成果の安全保障分野での積極的な活用のための官民の連携の強化(23頁)』として『民間のイノベーションを推進し、その成果を安全保障分野において積極的に活用するために、関係者の理解と協力を得つつ、広くアカデミアを含む最先端の研究者の参画促進等に取り組む。(23-24頁)』として、日本学術会議等の、大学における軍事転用の可能性のある研究を排除する方針を、さらっと明確に否定しています。これで学術会議は国の方針に反する組織ということになるんでしょうか。

今回のこの文書で目立つのが、従来「参加する」・「協力する」と言っていた国際的な課題について、「主導する」、「主導的な役割を果たし続けていく」、という言葉が目立つことです。はりぼての中国のGDP2位をあからさまに否定するわけではないけれど、実質的にアメリカに続くGDP大国の自覚と責任から今までより積極的に諸問題に立ち向かっていく覚悟の表明であり、中国・ロシア・北朝鮮・韓国にとっては戸惑いを覚える文書でしょうね。

ここまであからさまに書いた文書を発表してしまった以上、中国としても今さら林外相を呼びつけて文句を言ってみても懐柔してみても何の効果もない、ということでしょうか。林外相の訪中が急遽中止となってしまいましたね(表向きの理由はコロナの爆発のようですが)。

ここまでの覚悟と自信を持って堂々と主張を明確にしている文書は日本では初めての事じゃないでしょうか。今は亡き安倍さんが構想し岸田さんが継承すると言ったのがこの事だったのか、と思うと、日本もここまで来たか、と頼もしい限りです。

これは『国家防衛戦略』の9頁に書いてある『我が国の意思と能力を相手にしっかりと認識させ、我が国を過少評価させず、相手方にその能力を過大評価させないことにより我が国への侵攻を抑止する。(9頁)』というFDOという戦略の一つのようです。習近平がこれをどのように評価するか、コケ脅しだと思って日米を相手に挑発を続けるのか、日本の姿勢にビビッてしまっておとなしくなり国内での権力基盤を失ってしまうか、見ものですね。